経済学に目覚めて大学へ
官僚を目指すが煮え切らず

――「我究図」(前ページ)を見ると、高校を中退後、大学に進学されていますね。

河口 高校をやめて2~3年が過ぎた頃、大学に進学した小中学校の同級生を見かけるようになりました。友だちは大学生、片や自分は中学卒業でアルバイト。このまま音楽で芽が出なかったら、この先一体どうなるのか。現実を振り返ると、当初の希望とは一転、やり場のない絶望感に襲われることが多くなりました。

 そんな不安と戦う日々の中、書店で偶然、ある経済学の本が目に留まったのです。それまで私には、経済学は「お金もうけのための学問」という偏見がありました。ところが、その本を読んで、経済学は「どうしたら皆が幸せになれるかを追求する学問」であるという考えに変わったのです。

藤本 音楽との出合いにしろ、経済学との出合いにしろ、自分の感性を信じてその道に進もうとする行動力は、河口さんの大きな強みです。

河口 音楽と経済学には共通点があると思いました。もしかしたら、歌手になってかなえたい「たくさんの人を幸せにする」という夢は、経済学を学ぶことでも実現できるかもしれない。大学に行くことで、今抱えている将来への不安が解消できるかもしれない。そう思い立って高卒認定試験を受け、20歳の時に大学の経済学部に入学しました。

――苦労して進まれた大学で、経済学を究めたのですね。

河口 最初は大学院まで行って経済学を究めようと思ったのですが、勉強していくうちに考えが変わってきました。経済は社会の動きそのものであり、不景気になると人々の間で格差が顕著になってしまう。

 そうした格差を是正していくのは行政の役割であり、ならば自分が官僚になって、よりたくさんの人が豊かに生活できるよう貢献したい、そう思うようになったんです。幸い、大学では政治学科のゼミに入ることがきましたし、3年生の時から国家公務員試験の予備校にも通いました。

藤本 行政が担う役割について自分なりに考えたのですね。

河口 はい。でも、本当に自分で考えている通りなのか、実際に確かめてみないと分からないと思ったんです。そこで、現役の官僚の方たちに話を聞ける機会をいろいろと探してみました。話を聞いて感じたことは、やはり官僚の主な仕事は、仕組みをつくることだということです。

――何か新しい気付きがあったのですか。

河口 たしかに、世の中を動かす大きな仕組みづくりは大切です。しかし、自分はむしろ、仕組みに当てはめるだけでは解決できない問題を抱える「現場」で働きたい。そんな仕事の方が自分に合っているのではないかと思い始めました。でも、その仕事が一体何なのか、当時は見当すらつかなかったのです。