剝がれつつある「中国系ガールズバーで危険地帯」というレッテル
廃れた商店街に中国資本が参入し、中国系カラオケ居酒屋が天下を取った結果、ぼったくりが横行して界隈は危険地帯になった――というのがこの商店街に貼られた“レッテル”だった。しかし、筆者が見たのはまた違う一面だった。
カウンター席に置かれたメニューには「生ビール500円」、つまみは「1品300円」とある。歌は1曲100円、カウンターの女性が飲めば1杯500円がかかるが、ここはテーブルチャージもない。
筆者が訪れた店には福建省出身の女性が2人いたが、ごく普通の中国人女性であり、色香で客にこびるという様子でもなかった。
店の9割以上を自分の足で訪問したという事情通の吉川さんによれば、カラオケ居酒屋は現時点で160店舗ほどだ。このうち日本人が経営する店は20店余り、またフィリピン系やベトナム系のわずかな店を除けばほとんどが中国人経営で、そのうち7割程度が福建省から来た人の店だという。
「フィリピン系、韓国系の店は行くたびに値段が違いますが、中国系はどの店もほぼ一律で、いつ行っても同じ料金です」とも。「ぼったくり」どころか、「うわさとだいぶ違うのでは?」という印象を受けた。
もっとも、ぼったくり行為も存在する。昨年も客に睡眠薬入りの酒を飲ませ90万円を奪う事件があった。吉川さんは「昨年の年明けにはこんな事件もあった」と、酔っ払ったサラリーマンが怒りを込めて店舗のシャッターを蹴り上げる動画を見せてくれた。一部始終を見ていたという吉川さんは、「これは間違いなくぼったくりに遭った被害者で、『出てこい!ボリやがって!』と叫んでいました」と説明する。この店は、店名を変えていまだ存続中だというから用心が必要だ。
ちなみに、「今あるのは、店の女性が数滴の梅酒を入れた小さなグラス(500円)を何杯もお代わりして客に1万円超を請求する“プチぼったくり”がほとんど」(吉川さん)だという。
閉店は午後11時だ。この時間になるとシャッターを下ろす店が出始める。「午後11時閉店」は、橋下徹氏が大阪市長時代に行った改革の一つでもあった。
カウンターの福建省出身の女性は「シャッターを下ろした後も、仲のいい客や中国人同士が店に残ることもある。客が長くいれば稼げるけど、寝てしまう客もいたので『午後11時閉店』は悪くない」と言う。筆者が取材を終えて店を出たのは午後11時過ぎ。一部の店はまだにぎわっていたが、早々に看板の電気を消す店もあった。
過去には、中国系の店が集まった結果、悪質な客引きや大音量のカラオケ、ゴミの不始末などやりたい放題になったという報道もあった。だが、10年余りの時間の経過とともに解決してきた問題もある。ゴミの不始末や不法投棄問題も西成区役所が動き、今では、静かになった深夜の商店街を清掃車が回っている。