二つに分けられる「おもしろ肩書」
ポイントは取締役が付くかどうか

 下表が、今回の調査で判明した代表的な「おもしろ肩書」を表にしたものだ。具体的な説明に移る前に、表の見方を解説しておこう。

 肩書は大きく二つに分けられる。それは「取締役が付くか付かないか」である。取締役が付いているということは、株主総会で、株主によって選任された人物だということ。一方で、取締役が付かない肩書は、会社法上の責任は負っておらず、株主によって選任された人物ではないということだ。

 この違いは、とてつもなく大きい。というのも、取締役が付いている肩書は、株主によって解任させることができるが、付いていなければ、株主による解任手段はないからだ。それに、取締役が付いていなければ情報開示も任意であるため、会社外からその存在自体が見えにくくなる。

 前ページで挙げた名誉相談役が、仮に後輩の社長に指示を操る「院政」を敷き、会社のヒト・モノ・カネを私利私欲のために使ってしまったら……。株主は手出しできない状況になる。

上場企業で57人いる取締役相談役
代表取締役最高顧問は社長の実父

 取締役が付いている肩書の方が、院政を防げる仕組みがあるだけにまだマシだともいえるが、全くそのリスクがないというわけではない。

 再び上表を見てほしい。取締役相談役は、上場企業の中で57人が名乗る肩書だ。知名度のある企業を例に挙げると、フジテレビジョンを中核子会社に抱えるフジ・メディア・ホールディングス(HD)の日枝久氏(85)がその一人だ。同氏は1988年6月にフジテレビジョンの社長に就任。2001年6月には会長となった。17年6月に現在の取締役相談役に就任するまで、29年間経営トップを務めていた。会長在任時の05年、連結子会社のニッポン放送株を買い占めた堀江貴文氏とバトルを演じたことで有名だ。

 現在、フジ・メディア・HD社長である金光修氏(68)が入社したのは83年4月。日枝氏はその2カ月後、取締役に就任している。会社において新入社員と取締役の実力や経験、影響力は、天と地よりも大きな差だろう。その関係性が社長と相談役に変わった今、果たして逆転しているのだろうか。

 ちなみに同社の株価はこの15年、1200~1300円近辺を行ったり来たりで、時価総額が上昇しているわけではない。PBR(株価純資産倍率、23年1月4日終値ベース、以下同)は0.28倍だ。PBRの1倍割れは、理論的にはそのまま事業を続けるよりも資産を処分して会社を解散した方がいいとされる株価水準である。過去、社を率いてきた経験のある取締役相談役として、どのように業績向上に貢献してきたのか、あるいは今後貢献するのか、ぜひ聞いてみたいところだ。

 フジ・メディア・HDと似たような構図で、より珍しい肩書は、48年に設立され、経営や会計、法律などの分野を中心とした実務書を発行する出版社グループの中央経済社ホールディングス(HD)にあった。それが代表取締役最高顧問の山本時男氏(91)だ。22年間、社長を務め、退任後もそのまま取締役として残っている。上場企業の中で、取締役最高顧問の肩書を持つのは5人。その中で、代表権も持つ山本氏は、唯一の存在だ。

 ちなみに同社では、山本氏の長男である継氏(57)が代表取締役会長、そして三男の憲央氏(53)が代表取締役社長を務めている。親子という他に代え難い強い結び付きを持つ3人による経営は、抜群の結束力を生み出すのかもしれないが、同社のPBRが0.42倍だと聞かされると、疑問を持たざるを得ない。

仕事内容は?会社に対する責任は?
名誉会長相談役&社友名誉会長

 次に取締役が付かない肩書を見ていこう。

 真っ先に紹介したいのが、名誉会長相談役の肩書を持つ、日清製粉グループ本社の正田修氏(80)だ。同氏は86年6月、43歳にして社長に就任。23年間、日清製粉グループ本社を率い、09年6月に会長を退任した。創業者である正田貞一郎氏の孫で、上皇后美智子さまの弟である。

 名誉会長相談役は、上場企業のCG報告書を調べると、日清製粉グループ本社のみにある肩書だ。正田氏は「非常勤・報酬有」だという。

 また、社友名誉会長という肩書もある。この肩書を持つのは、日本製鉄の今井敬氏(93)と三村明夫氏(82)だ。今井氏は財界総理である経済団体連合会の会長、三村氏は日本商工会議所会頭を務めた、経済界の超大物だ。CG報告書では「非常勤・報酬無」と開示されている。

 この二つの肩書は、一見すると会社で何を担っているのか分かりにくい。「名誉」と付くからには、名誉職であるため実際に業務を担っているとは考えにくい。だがその一方で、日本製鉄で使用されている「社友」は、「社員以外で社員待遇を受ける人」「同じ社に属する友人」(広辞苑)。なおさら、仕事内容は分からなくなる。

 そこで、業務内容を見てみると、日清製粉グループ本社の正田氏と日本製鉄の今井氏、三村氏に共通して、「経験及び見識に基づく助言」と「経営陣の求めに応じ、意見を述べている」ことだと開示されていた。

 正田修・名誉会長相談役の業務内容について、日清製粉グループ本社に聞いてみると、「グループ内で支配的な立場を有しておらず、グループの意思決定に影響を与えるようなことはありません。社業に関する豊富な経験と高い見識を有しており、経営陣の求めに応じて有益な助言をいただいています」という。

 だが忘れてはならないのは、前述した論点だ。元社長・元会長を務めた人物は、実績や知名度において現経営陣に対して影響力を及ぼす力がある。そのため、外形的にはコーポレートガバナンスが機能不全に陥るリスクを孕んだ構図であることは指摘しておくべきだろう。

 では、リスク排除のために、取締役が付いていない長老たちを放逐すればいいかというと、そうとも言い切れない。社長や会長を退任後、非常勤でも会社と関係を維持していることで、業績を安定化させたり、現経営陣が安心して意思決定できたりする効用もあるからだ。

 その好例が、三重県三重郡朝日町に本社を構える建設用金属製品メーカーであるカネソウ。同社の取締役名誉会長である小林昭三氏は、この3月に95歳を迎え、現在、上場企業の現役最年長取締役だ。地元では「会長さん」と親しみを持って呼ばれる同社の顔で、毎日出社している。

 そんな小林氏に対して、現社長の豊田悟志社長は「経営の最終的な責任は私にあるが、経験からの助言をもらっている。これからも変わらず、社に居てもらいたい」と全幅の信頼を寄せている。両者がコーポレートガバナンス不全に陥ることがないよう節度を持っていれば、企業価値向上へ結び付くケースだといえるだろう。

 しかし、今後こうした肩書も姿を消すかもしれない。現在の東京証券取引所や経済産業省は、コーポレートガバナンス向上のために、元社長・元会長を務めた人物が会社に長く在籍することを良しとしていないからだ。

 レアで謎多き「おもしろ肩書」も、この数年で見納めとなりそうだ。

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