ロンドンの人口急増により
世界初の地下鉄が開業

 ロンドンの地下に鉄道を建設するアイデアは、メトロポリタン鉄道の開業から20年ほどさかのぼる1840年代から存在したという。イギリスで世界初の旅客鉄道ストックトン・アンド・ダーリントン鉄道が開業したのは1821年のこと。効用が認められた鉄道はすぐに全土に拡大し、産業革命を牽引(けんいん)した。

 ロンドンの人口は19世紀前半に100万人から250万人に急増。それだけの人が集まれば通りは歩行者と馬車でひしめき合い、大混乱を引き起こした。またロンドンを中心に多数の鉄道路線が開業し、郊外からの人口流入が加速。都心周辺部に設けられたターミナル駅から都心に向かう人々で、町はさらに混み合った。

 こうした事態を打開すべく、主要ターミナル間を鉄道で結ぶメトロポリタン鉄道が構想され、1854年に会社設立。1860年に着工し、1863年に開業した。新聞は薄暗い地下を走る鉄道など誰が使いたがるのかと否定的だったが、開業初日に3万人が押し寄せる大成功を収めた。

大きく二つに分かれる
地下鉄の建設方法

 地下鉄の建設方法には大きく分けて2つある。地上から掘り下げる「開削工法」と、立坑から地中を横に掘り進む「シールド工法」だ(厳密にはシールド以外にも横に掘り進む工法はある)。世界初の地下鉄は開削工法によって建設されたが、前例のない試みだけにさまざまな困難があった。

 現在の開削工法とは異なり、メトロポリタン鉄道では道路に蓋をせずそのまま掘り下げ、道路から外れる区間は地上の家屋を撤去して工事を行った。これでは用地買収に多額の費用を要し、工事中は路上の混雑が助長されてしまう。

 現代と同様、道路の両側に杭を打ち込み、間に渡した鋼材の上に仮の路面を設置した後、道路下を掘り下げる開削工法は1896年、ロンドンに次ぐ2番目の路線となったオーストリア・ハンガリー帝国のブダペスト地下鉄で初めて導入された。

 メトロポリタン鉄道のトンネルは天井がアーチ状の「かまぼこ型」の形をしていたが、ブダペスト地下鉄は四角い箱型トンネルを採用した。合理的な工法が確立されたことで、1902年開業のベルリン地下鉄、1904年開業のニューヨーク地下鉄など、20世紀以降、地下鉄は各地に普及していく。

 これに対して新しい技術の「シールド工法」と言いたいところだが、実はこちらの方が歴史は古い。シールド工法は地下鉄建設から更にさかのぼるところ45年、1818年にイギリス人技師イザムバード・キングダム・ブルネルが特許を取得したことに始まる技術だ。これは海中の木材を食べるフナクイムシが、開けた穴の周囲に分泌した石灰質を塗り付け、トンネルを作ることから着想したといわれている。

 シールド工法は川底など水を多く含む軟弱地盤で、トンネルの崩壊を防ぎながら掘削を進めるために用いられる。ブルネルはロンドンのテムズ川を縦断する川底トンネル「テムズトンネル」掘削にシールド工法を採用し、1825年から1843年まで18年の時間を費やして開通させた。