スパイ行為の摘発に関する
中国側の三つの思惑
中国の思惑として、三つ考えられる。
一つ目は、中国による正当なスパイ行為の摘発だ。
これは国家安全保障上も非常に重要な活動(=カウンターインテリジェンス)であり、国家として当然の思考・行動である(日本においても捜査機関が懸命に既存法を駆使して対応しているが、しっかり定義付けされた、拡大解釈のできないスパイ防止法の制定が望まれる)。
二つ目は、見せしめである。
ただし、この見せしめにも二つの側面がある。
一つ目は外交カードとしての側面だ。
本件拘束の報道があった前日に、日本政府が2月末に帰国した中国の孔鉉佑前駐日大使からの岸田文雄首相に対する離任あいさつの申請を断っていたことが判明している。これは、日本政府の対応としては異例であり、世論を考慮し、慎重な対中姿勢が示された結果である。
これに対し、中国は、日本への報復措置として、日頃から本件アステラス製薬の社員の動向は把握しつつも、いつでも反スパイ法が適用できるように泳がせ続け、日本政府への見せしめとして検挙・拘束した可能性もある。
実は、このような手法はウラジオストクの日本総領事館領事が安倍元首相の国葬の前日にロシア連邦保安局(FSB)によって身柄を拘束された件と類似している。その拘束のタイミングと拘束された際の行為自体を見ても、ウクライナ侵攻を巡る日本への報復措置・見せしめと同様の趣旨が垣間見える。
ただし、これまで中国によってスパイ容疑で日本人が摘発されたタイミングを見ると、必ずしもそのタイミングが報復や外交的見せしめとなっておらず、線としては薄いだろう。
また、広島県におけるG7が控えている中でのけん制としている可能性はある。
いずれにせよ、外交カードの一つとして、反スパイ法が有効に活用される手段であることは認識しておかなければならない。