反スパイ法改正により
スパイ行為の対象拡大の可能性
そもそも、この反スパイ法は14年11月1日の第12回全国人民代表大会常務委員会第11回会議で可決され、施行された。
同法のスパイ行為の定義は、すべての機構、組織、個人によるスパイ行為はもとより、その任務受託、ほう助、情報収集、金銭授受などは、すべてスパイ罪とみなされ、その定義は非常に広範で曖昧だ。
さらに懸念すべきは同法改正の動きだ。
2022年末には改正案が公表され、40条の現行法から71条編成へと大幅に内容が加えられた。
この改正案は、現行法にある“国家機密の提供“に加え、「そのほかの国家安全と利益に関係する文書、データ、資料、物品」を対象に含むと定義し、さらに「重要な情報インフラの脆弱(ぜいじゃく)性に関する情報」もスパイ行為の対象であると規定している。
また、改正案では、スパイ行為が疑われる人物・組織が所有・使用する電子機器やプログラム、設備などの調査権限も規定している。
これらを見てもわかるように、スパイ行為の定義自体が非常に幅広く、例えば中国国営に近しい中国企業との取引で発生したデータさえ抵触する恐れがあるし、疑いがあれば企業施設内に当局が入り込み、調査と称してあらゆる機器を差し押さえ、当該機器内の機密情報は筒抜けとなるだろう。
これまで、日本企業として相手先企業のデューデリジェンスは当然のごとく行われてきているが、中国の恣意的な法運用や昨今の国際情勢を鑑みて、よりハイレベルで中国の恣意的法運用リスクを含む地政学的要素を盛り込んだ対応が実施されなければならず、今回のように日本大手企業の中国法人幹部が不透明な容疑により反スパイ法で摘発されたとなれば、よりその必要性を感じさせることとなる。