賃上げもできない中小企業が大半、商工会議所に入る“余裕”なし

 そもそも、234万社の経営者はなぜ商工会に入っていないのかというと、メリットを感じないからだ。つまり、中小企業振興や地域振興などにそれほど興味がないのだ。では、なぜ興味がないのか。個々の性格的な部分もあるかもしれないが、やはり大きいのは経営者として「余裕」がないからではないのか。

 先ほど日本の中小企業は、357万社だという話をしたが、その6割は「小規模事業者」だ。製造業ならば従業員20人以下、商業サービスなら5人以下の、いわゆる「零細企業」である。

 さて、あなたがこういう零細企業の経営者になったとして、日本の中小企業振興や地域振興を考えられるだろうか。自分の会社を存続させることで頭が一杯で、そんな心の余裕も時間の余裕もないのではないか。

 そして、こういう余裕のない零細企業経営者は「賃上げ」ができるだろうか。もし商工会議所のアンケートが来たとしても、「こんな厳しい状況で、賃上げなんかできるわけがないだろ」と即答ではないか。

 こういう「賃金が上げられない小さな会社」が、日本全国に300万社近くあふれている。これが「安いニッポン」の根本的な理由だ。

 こういう会社は従業員に低賃金しか払えない。何年も昇給せずに同じ給料を払っている。だが、従業員もそれに不満は言いづらい。従業員が数人しかいないので人間関係が密になるからだ。ほぼ家族同然の付き合いをしているので、社長が苦しいことは、身近に見ているのでよく知っている。いくら給料が安いからといってワガママが言えない。だから、低い賃金でも我慢して働いている――。

 そして、こういう小さな家族経営の企業は、トヨタ自動車やユニクロの下請けでもなければ取引先でもないので、この手の大企業の「賃上げラッシュ」はまったく関係ない。日本商工会議所の会員になるような「意識の高い中小企業」と統計的には同じ「中小企業」というくくりにされるが、ビジネスモデルも規模も経営にかけるモチベーションもまったく違うので、「6割が賃上げ」と聞いても、自分たちとはまったく関係のない世界の話なのだ。