警察がOKを出したはずのデモが
実施前夜になって中止に

 だが、筆者はこの奇妙な決定に、つい最近やはり香港で起きた出来事を思い出した。

 3月8日は「国際女性の日だった。これに合わせて、3月5日の日曜日に女性や女性労働者の権利保護を訴える街頭デモが企画されており、主催者の香港女性労働者協会がすでに警察による「不反対通知書」を受け取ったと3月初頭に報道された。

「不反対通知書」とは、集会やデモなどの公共空間におけるイベントの企画者が警察にその旨や規模などを申請し、警察がその開催に反対しないとする意思を伝える手続きだ。不反対通知書の発行によって、イベント開催に必要となる交通整理や路上規制に警察が協力するという意味がある。2019年のデモや集会も、当初はそれぞれにこの通知を受けて開かれたが、事態が深刻化するにつれて警察は不反対通知書を出さなくなり、つまりそうした活動実施に反対するという姿勢を見せた。2020年に入ると新型コロナの感染拡大で政府が集会禁止令を発令し、それが取り消された昨年末までずっと、不特定多数が集まる公開イベントは開けない状態が続いていた。

 今回の報道によると、今年に入ってから警察はすでに20件あまりの公共イベント活動に不反対通知書を出しているそうで、少なくとも2019年のデモ前のように、正式な手続きを経たイベント開催が少しずつ回復しているかのような論調になっていた。

 さらに今回のデモを企画した香港女性労働者協会の主要メンバーは伝統的民間権利団体のメンバーで、「集会禁止令解消後、初めて民主派シンパ組織による一般デモや集会組織が認められた」とも触れられていた。

 しかし、デモの前夜になって、主催者が突然「大変残念だがデモを取りやめる」と宣言。続いて警察も記者会見を開いて、同通知の発行後、「主催者とさまざまな利害についての交渉を行った結果」主催者から企画中止の申し出があり、これを受けて警察はすでに出した不反対通知書を無効としたと発表した。

 だが、なぜ警察が不反対通知を出す前ではなく、出した後に「利害」を話し合う必要があったのか、など、これまでの手続きと比べ不明な点が残った。そんな疑念が寄せられる中、デモを企画したメンバーたちが声明を発表。計画決行の報道が出た後にメンバーが警察の国家安全処に呼び出され、デモに参加すれば逮捕すると警告されたと明らかにした。