医学検査には費用も労力もかかる。今回の選抜では、募集要項に疑問を呈した受験者の声を聞いた。例えば視力。応募資格では「両眼とも矯正視力1.0以上」という条件しか明記されていない。
前回の募集要項では視力について屈折度や乱視度数などで具体的な数値が示されていたのと比較すると、一見、緩和されたようにみえた。
だが、受験者らが書類選抜後に情報交換した結果、「前回と同レベルの視力条件が適用されたのでは」という声が上がった。
受験者からの問い合わせを受けJAXAは書類選抜後の22年5月19日、ウェブサイトに補足説明を掲載。視力については「高度な矯正度数が必要であり、網膜剥離・眼精疲労などのリスクがあると考えられる方(高度近視や高度乱視の方)」が(不合格者に)多くいたとした。
受験者からは基準を明記したことを評価する一方、「応募資格に記載すべき」、「応募者を多数集めるためだったのか」という意見が出た。
宇宙飛行士に人生を懸けて応募する人たちも多い。彼らの挑戦に真摯(しんし)に向き合う姿勢がJAXAには求められている。
今後の宇宙飛行士に求められる
「2つの資質」とは
今回の選抜試験が過去の選抜と異なった点がある。求められる能力に「プレゼンテーション能力」が加わったことだ。
宇宙開発、特に有人宇宙探査には莫大な税金がかかる。そして月を歩ける人は限られている。その希有な体験を多くの人たちと共有し、宇宙開発への理解を深める役割も宇宙飛行士に課せられている。
そこで、今回の選抜では「プレゼンテーション試験」が各段階で実施された。1つの絵を見てプレゼンする試験、月面を模擬した宇宙探査フィールドを歩いた後に、英語で感想を述べる試験も実施された。
今後、どんな人材が求められるのか。JAXA山川宏理事長の話から浮かび上がったポイントは2つ。
一つは「柔軟性」。国際協力で進める宇宙探査は、状況が変わる可能性が常にある。月面探査が遅れ計画がキャンセルされる事態も否定できない。一方、商業宇宙ステーションで仕事をするかもしれない。「今後、さらにいろいろな場面に柔軟に対応できる人が求められる」。
そして二つ目のポイントが「身近な存在」。宇宙は遠い存在でなく、我々に身近になりつつある点を広げていきたいとする。
今回の選抜では2人の素晴らしい宇宙飛行士候補者が誕生した。彼らが切り拓くであろう未来に大いに期待が膨らむ。と同時に、JAXAは選抜に挑戦した約4000人全員がExplorers(開拓者)とする。ならば今回の課題にJAXAはきちんと対処し、開拓者たちの挑戦と成長を全力で後押しする選抜を次こそ実現してほしい。そう願ってやまない。