だから彼は、経営陣のやり方がまちがっている点を列挙するかわりに、「シンプル・サボタージュ・フィールド・マニュアル」をさっと取り出し、先ほどの5か条を読み上げていく。すると、「これは自分たちのことか」と気づいた役員たちは、引きつったように笑う。やがて、ことのばかばかしさを理解するにつれ、大笑いしだすのだ。

「委員会を立ち上げる数はなるべく少ないほうがよい」という正攻法のアドバイスだったら、すんなりと理解できただろう。だが役員たちは、CIAのお墨付きの妨害作戦に図らずも加担しており、自分たちの会社をめちゃくちゃにしていることに、なかなか気づかない。その滑稽さを一同に気づかせることによって、ヘンリーは相手に言いにくいことを見事に伝えるのだ。その方法は一同の注目を集め、変化を促すだけでなく、相手にとって受け入れやすいやり方でもある。

自分の間違いを認める

 ある人にとって受け入れ難かったのは、自分の落ち度を認めることだった。

 ソナル・ナイークは、ある多国籍IT企業の製品部門トップが主催する、一日がかりのオフサイト役員研修の企画立案の真っ最中だった。その企業は400億ドル規模のビジネスを展開しており、彼女が企画・進行を担当するセッションには20名以上のシニア・リーダーたちが招集されていた。重役たちが勢ぞろいするきわめて重要な会合であり、本番当日が迫ってくるなか、彼女はクライアントとともに計画の細部を詰め、賛同を得るのが急務だった。

 スケジュールが押し迫っており、事前の電話会議に30分しか時間が取れない。短時間で話すことが山ほどあるため、彼女は2倍速でしゃべり、息つく間もないほど次々に要点をまくしたてた。1分間ひとりでしゃべり続けていたところ、突然、クライアントが割って入り、深いため息をついて大声で言った。「長すぎだ、ソナル!いくらなんでも長すぎだ!」

 ソナルは黙って、口答えをしないようにこらえた。

 彼女はどうにか気を取り直し、なるべく前向きな口調で電話会議を締めくくった。だが、重要な会合の前日に、話が長いと叱責されるなんて、クライアントの信頼を勝ち取るには理想的な滑り出しとは言えないと思ったことを、彼女はいまでも憶えている。