どちらが良いかは
自分の感覚で選ぶ

 言葉遣いの議論のほとんどは「どっちもあり」だと強調する飯間氏だが、職場などでの言葉遣いについて、さらにこう述べる。

「『どっちもあり』では迷ってしまう、という意見ももっともです。対外的に統一感を持たせるために、職場の実情に応じたルールを決めておくのもいいでしょう。ただ、『お疲れ様でした』という言い方ひとつ取っても、言われてうれしい人もいれば、不愉快に思う人もいます。あらゆる場合に『これなら失礼にあたらない、間違っていない』という言葉はありません」

 ビジネスマナーとして敬語もよく例に挙げられる。学校で習う程度の敬語の知識は必要だが、融通の利かないルールで自分自身を縛るのも考えものだと、飯間氏は自身の経験を通して言う。

「私は学生時代から敬語の知識だけはかなりあったんです。ところが、教科書通りの敬語で人と話すと、『堅苦しい』『変に気を使うからやめてくれ』と言われてしまう。マニュアル通りの敬語では、実際の人間関係はスムーズにいかないことが多いんだなということに、次第に気づくようになりました」

 そもそも敬語も時代によって変化している。飯間氏によれば、敬語には使われるうちに敬意が少なく感じられる「敬意漸減」という現象が生ずるという。その不足感を補おうとして、表現が次第に念入りになっていく。「○○させていただく」という言い方がよく話題になるが、最近の研究では、この表現も敬意漸減を補う面があるそうだ。

「例えば、何かを『あげる』という言い方は、昔は謙譲語として使われていました。大正時代、関東大震災の時には、被災者に向けた貼り紙に『おくすりをあげます』などと書かれていました。今だと『あげる』は少し上から目線に感じるので、『ご用意しております』などと表現するかもしれません。これも敬意漸減の例です」