「兆候があっても経過観察をしないことには、なかなか判断できないのが、前頭側頭型認知症の厄介な点。また人格変化が進行すると、周囲に迷惑をかけるだけでなく、医療機関への受診のハードルも上がっていく。若年で発症した患者は体力がありあまっているため、施設への入所も難しい。家族もどう対応すればいいのかわからず、悲観しているケースも多いのです」

反社会的な逸脱行為の有無が
前頭側頭型認知症の見極めポイント

 そんな「前頭側頭型認知症」の大きなポイントは「反社会的な逸脱行為」だ。

「反社会的な逸脱行為というのは、たとえば万引をする、痴漢行為、信号無視、部屋を片付けられず家がゴミ屋敷化する……といった行動です。前頭側頭型認知症は、理性や感情のコントロールができなくなるので、暴力や反社会的行動をちゅうちょなく行えるようになってしまうのです」

 こうした症状は、実は医師の間でもいまだに認知が広まっておらず、この病気が理解されにくい一つの要因となっているという。

「前頭側頭型認知症患者は、周囲を無視したりばかにしたりと、自己中心的な行動をとることが多く見られます。そのため病院でも診察拒否や不真面目な態度で、医師とけんかになるケースもあります。また治療法については特徴的な症状に対して、抗精神病薬を処方する対症療法のみで、進行を遅らせる薬はありません。ハッキリとした予防策もなく、原因も解明されていないのです」

 日本の認知症患者は600万人以上と推計され、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると予測されている。もし身近に万引や窃盗、ゴミ屋敷化や信号無視など問題行動が表れるようになった人がいたら、「認知症」の可能性も考えたほうがいいだろう。