それは、東京・銀座、名古屋、そして大阪だ。

 前記の秋葉原、福岡も含め、共通点として、中国の同郷会・華僑団体に関連性があり、また華僑団体は、在外中国人の海外における福利の向上などを目的とするOCSC(Overseas Chinese Service Centers)として世界にネットワークを張り巡らせており、同ネットワークを利用して非公式警察が設置されていると推測される。

 また、華僑団体にも言えることだが、同郷会などを通じて在外中国人内でのコミュニティを利用し、非公式警察の任務を遂行しているのだろう。

 これら非公式警察は、あくまで“拠点”であり、その任務は各団体の関係者“個々人”に割り当てられていると思われる。

日本の主権を侵害する
非公式警察を摘発できるのか

 米国司法当局が中国非公式警察の関係者を逮捕したことに対し、松野博一官房長官は「実態解明を進めている」と説明。さらに「中国側に対し、外交ルートを通じて我が国の主権を侵害するような活動が行われているのであれば断じて認められない旨、申し入れを行っている」としている。

 恐らく、その言葉の通り、非公式警察の実態解明を進めているだろうが、果たして日本の主権を侵害する非公式警察を摘発できるのだろうか。

 答えは「難しい」と言わざるを得ない。

 まず、在日中国人に対する監視や脅迫は表に出づらい。対象となった中国人が日本の警察に助けを求めれば、非公式警察は中国本土にいる対象中国人の親族に嫌がらせをするだろうし、対象中国人もその可能性は十分認識しているだろう。

 そして、日本の法に触れるような形で非公式警察が脅迫や嫌がらせを実施するとは思えない。

 また、拠点の設置についても、非公式警察が入居ビルを偽名で借りたり、偽造身分証明などで各種契約をしたりするまでもなく、正当に企業や日中友好団体等としてビルに入居し、企業活動をしながら、任務を与えられた非公式警察関係者が粛々と任務を行えば良いので、あえて法に触れるようなことはしないだろう。

 要は、彼らが行う日本の主権侵害に対し、速やかに適用できる法令がないのだ。

 これまで筆者は、日本社会において、民間レベルでのカウンターインテリジェンス(防諜活動)意識の醸成とインテリジェンスコミュニティの形成を唱えてきたが、加えて、改めてスパイ防止法の議論の必要性を訴えたい。

 スパイ防止法において、基本的人権との衝突の可能性が議論を衰退させる理由も理解できるが、このような国際情勢下で、非公式警察のような組織を摘発する法令さえ準備されないのは危険ではないだろうか。

 まず、スパイ防止法の検討に向けた議論の開始がなされることを祈る。

(日本カウンターインテリジェンス協会代表理事、元警視庁公安部外事課警部補 稲村 悠)