「萌え断」がSNSでブーム
フルーツサンドの断面も話題に
日本のフルーツサンドに話を戻そう。
フルーツサンドは、パンにフルーツとクリーム、この3つが三位一体となり、そのバランスが最高のハーモニーを醸し出す。
クリームの工夫としては、濃度をケーキなどよりも硬めに仕上げ、三角形のサンドイッチを立てて時間がたっても、上部からだれないようにしないといけない。
さらに、いまではフルーツも十分に甘味があるものに品種改良されているものが多い。そのため、クリームの糖度で甘さを補完しなくても済むようになった。いまでは甘さ控え目となっているクリームがほとんどで、かつ、マスカルポーネチーズや蜂蜜、カスタードやヨーグルト、あるいは豆乳などを隠し味に入れていることもある。
また、フルーツサンドは、切れ味の良いペティナイフや包丁でスパッと切らないと、サンドイッチの断面がつぶれてしまい、見栄えが美しくならない。日本食では刺し身を砥石(といし)でよく研いだ包丁で切る。そして、切り方によって口当たりが変わり、味覚さえも左右するため、切れ味や断面に関して日本人は意識を高く持っているといえるだろう。外国では、砥石を使う習慣がないため、フルーツサンドのきれいな断面を作ることが、そもそも物理的にまねしにくいということもあろう。
だからこそ、アメリカ人記者は日本で初めてフルーツサンドに出合って驚いたのかもしれない。その断面と味のおいしさに魅了され感動して、SNSで世界に発信したのではないだろうか。
ちなみに、2016年頃からSNSでは、「萌え断」(もえだん)とともにカラフルな写真が載り始めた。これは、“断”面が美しくカラフルな“萌え”る食べ物のこと、つまりは映える食べ物がブームになっていた。
もともとは、お米を握った中に具材を入れて見えなくするのではなく、具材をお米でサンドイッチ状にして見せたおにぎりの「おにぎらず」が始まりだ。さらには、「わんぱくサンド」(“わんぱく”という表現が合うくらいに、多くの具材をあふれんばかりにパンパンに盛り込み挟んだサンドイッチ)が続いた。
その後、フルーツサンドのカット断面が見栄えすることが話題となった。いまでは、フルーツの配置を工夫し、断面が花木の柄に見える華やかなものも登場している。
フルーツサンドの形状は、通常のサンドイッチ同様に三角形や四角形のものがあり、その存在をサンドイッチと見るのか、ケーキと見るのか、あいまいな部分がある。食事としてのパンとデザートとしてのスイーツの“いいとこ取り”の食べ物ということもある。さらに、普段自分で食べる以外にも、お土産や贈答品にもなる。さまざまな面から、2つの意味を持ち合わせる“二刀流”の日本の発明品なのだ。
WBCでは、大谷翔平選手の投打にわたる異次元の二刀流の大活躍があった。その素晴らしい歴史の1ページに続いて、日本が誇るフルーツサンドが世界を席巻する年になることを、ぜひとも期待したい。