農薬を散布するヘリコプターPhoto:ullstein bild/gettyimages

国内農薬市場(約4000億円)におけるシェア拡大を目指し、欧州発のグローバル農薬メーカー、独バイエル クロップサイエンスなどが攻勢に出ている。農薬の使用量を半減する欧州連合(EU)の環境保護政策に対応するために開発した技術やソリューションを武器に、他国市場に攻め入る戦略だ。日系メーカーは、世界市場でも守勢に回りそうだ。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

農薬半減目標でゲームチェンジ
EVと同様、ルール形成で日本敗北

 欧州連合(EU)は、電気自動車(EV)を優遇する政策を打ち出して、EV産業を育成し、他国の自動車市場でシェアを伸ばす戦略を取っている。

 このように、ルール形成と産業振興を二人三脚で進めるのはEUの十八番(おはこ)だ。実は、欧州勢は自動車業界にとどまらず、農業においても同様の戦略でゲームチェンジを仕掛け、すでに実績を上げている。

 欧州の農薬メーカーの成長エンジンとなっているのが、EUが2020年に策定した「ファームtoフォーク戦略」だ。農薬の使用と環境リスクを30年までに半減する目標を掲げる。日本政府も、EUの後を追うように「みどりの食料システム戦略」を定め、EUと同様の農薬半減目標を盛り込んだ。

 だが、EUと日本の農薬半減目標には決定的な差がある。目標達成年がEUは30年なのに対し、日本は20年遅れの50年なのである。

 農薬世界最大手の独バイエル クロップサイエンスや独BASFは、日系大手の15倍以上の研究開発費を投じて、農薬の削減と、農家の所得向上を両立するソリューションを展開し、実績を上げている(詳細は、4月25日公開予定の『バイエル、BASFが狙う食料生産の世界覇権、「脱・農薬売り、成果に課金」への大転換の実態』参照)。

 次ページでは、日系農薬メーカーが欧州発のグローバル企業に製品やサービスの開発で出遅れている実態や、その要因を明らかにする。