これからの時代に必要なのは
日本語で論理的に伝える技術

――年代を問わず、リスキリングが推奨されていますが、どうお考えですか。

 20代は、勉強よりも、質的なハードワークをすべきだと思います。長時間働くのではなく、あくまで質です。僕自身、最初の会社では、18時、19時に帰宅していましたが、仕事上の工夫、考える量、求める水準を自ら高く設定していたので、質の高い仕事ができるようになっていったと思うし、業務の成績は良かったです。高い水準を求められる環境に身を置くことが成長には必要ですね。新人が書く議事録でも、すごく高いレベルを求められる会社、とりあえず書いていればいい会社、書かなくても何も言われないという3社があったとすると、その差は、10年たったらとんでもなく開いていると思います。

 リスキリングというと、これを学べばキャリアアップできるといったような、目先の経済合理性ばかりがゴールになっている気がします。ただ、それでは、あまりモチベーションが上がらず、学び直す意味を感じない人も多いのではないでしょうか。それより、若い時期に必死に質の高い仕事をして、その中で、自分が本当に知りたいことや面白そうと思うことがあったら、ある時点で、そのことに真剣に向き合って取り組んでみるのが大事だと思います。

 新しいことを学ぶには、どこからやらなくてはならないかを考え、時間を確保し、習慣化する。基礎に立ち返って、同じことを粘り強く繰り返し何周もしながら、一個一個できることを増やして習得していく。こうしたプロセスは、非常に汎用性が高いと思いますし、それを身に付けておくと、結果的に、仕事で新しい部署に行っても役に立つと思います。

――ある程度キャリアを積んだ人が、大学や大学院で学ぶ意義はあると思いますか。

 年代を問わず、書き言葉の日本語を正しく操り、論理的に伝える力がない人は少なくないと思います。時々、「メールだとうまく伝えられないので電話していいですか」と言う人がいるのですが、そういう人が電話でわかりやすく話してくれたことが一度もないんですよ(笑)。電話だろうが、メールだろうが、自分の考えをまとめられないし、それを正しく言葉にして伝えられない。言語化もできないし構造化もできない。

 対面の方が生産性が上がるというのなら、コロナ前の30年はずっと対面だったのに、なぜ日本では生産性がずっと低いままだったのかという話になりますよね。そんな人たちで、会議をしたとして、それで会議がまとまるわけがないんですが、これまでは理解力の高い人が「察して」頑張って、なんとか会議を成立させていたんですよね。口頭のコミュニケーションは、他人の理解力に助けられている。それがなくなったら、とたんに伝えられない。ChatGPTは、今はまだそういう空気の読み方はしてくれませんから。

 それを考えると、社会人が大学院や大学に入って勉強する支援を全力でするのが、僕は実は日本の将来に一番いいと思います。母国語をきちんと操って論理的に考え、それを論理的に人に伝えられる力が今後のビジネスではもっとも求められていると思うからです。これは、IT技術がどうという以前の問題です。プログラミングだって、結局は一行一行の論理の積み重ねです。深く、長く考える力とデータを扱える能力、言語を操り人に伝える力が一番訓練できるのは、大学や大学院での教育ではないでしょうか。大学院ではそれを自分で体験してみたいと思っています。