なぜサブタイトルが縦組で7行もあるのか
阿部 サブタイトルをどう扱うかはちょっと考えましたか、やっぱり?
――縦組みの7行で、見づらいという意見も編集部内ではあったんですよね。
鈴木 あ、やっぱりそうですよね。もしかしたらそれはあるかもしれないと思ってました。順当に考えると、メインタイトルと同じようにきちんと横組みで組むなど、やり方はいろいろあるのですが、ちょっと半分言い訳じゃないですけれど(笑)、メモの造形自体がこういう四角いメモにしてるので、なんとなくサブタイトルも淡々とブロック的に組まれてるほうがメモ感があっていいなって思ったのです。素直に組むと意外とスルッと抜けちゃうような気がしたので。
阿部 僕のところには、この3文字ずつの改行が、「サブタイトルがすごくうまくハマってる感じが面白いですね」と言ってくださった方もいて。
鈴木 この言葉だから成立してる気もします。やっぱり3文字で改行するって本当はなかなか綺麗に区切れないですし。
阿部 まさに「新しい/自分に/生まれ/変わる/ための」と、3文字でちょうどよく区切れるという。
――サブタイトル、縦書きはどうかという人もいた一方で、縦書きだからしっかり読んじゃったという人もいて、鈴木さんは絶対そっちを狙ってるんだなと思ったので、それで通したんですよね。横書きだと意外とスラっと目に入っちゃうから、逆に頭に入らなかったりするんですよね。
鈴木 そうですね。まさにその通りです。
――打ち合わせのときに「イメージカラーはありますか」と言われたのがすごく印象に残ってます。あまりそういうことを言われる人っていないんです。よく聞かれるんですか?
鈴木 そうですね。あくまでも色が取っ掛かりとして、「こうなったらいいな」というイメージを話すのに、ぱっと思いつきやすいたとえではあるので、それで聞いてしまうことはあります。阿部さんの本の場合は、どんなふうにしようかなって具体的に考える前から、「阿部さんが本になったらこんな感じ」っていうニュアンスが含まれるといいなと思っていたので、それもあって、何色がいいかなというのはちょっと聞いておこうと思いました。
――で、確か僕は、「寒色系で、泣きたいときはブルースを聞きたいみたいな感じだけど、その中に温かさがある」みたいなことを言ったと思うんですが、それが見事に表現されてて感動しました。
基本は1案のみ
阿部 帯の「不安なのは、君が本気だからだ。」という、このパンチの効いた色使いもセットになって、ものすごく目に飛び込んできます。あと、提案いただいた装丁案は1案だったじゃないですか。本当に素晴らしいなと思ったんですけど、普段から、基本は1案プレゼンなんですか。
鈴木 そうですね、私は1案です。
――人によってはいろんな案を出される方もいますよね。
鈴木 はい。だから、最初に「1案でもいいですか」とお伝えすることもあります。人によってやり方は違うと思いますが、自分の場合は、最初から2案を出す、可能性が2つあるという状態で出すよりは、まず自分が思うベストといいますか、絶対これがいいというのでまず見てもらうところからスタートしたい。結果的に、でもやっぱり色はこれがいいんじゃないかってことが発生したとしても、まずは絶対1個にしておかないと軸がブレてしまう。最初からいくつも案があるとどうしても、ぐるぐる迷子になりやすく感じます。
阿部 自分で選び抜いていくんですね。このカバーをめくると表紙の濃いブルーは、それが夜のようにも感じられます。カバーが明るくて昼の時間で、時間も表現されているようで、この色の差がいいですねって解釈してくれる人もいて。この表紙の色選びは何か理由があったんですか。
鈴木 そうですね……、全部が明るくて真っすぐなわけではもちろんないのでしょうし(笑)、やっぱりカバーを取ったときにはどこか落ち着いていたいなって。自分が阿部さんの言葉を読むときに、カバーを外して読む場合には、一緒に落ち着きたいなっていうのがあったので、隅から隅まで明るすぎないほうがいいかなと思ってました。
阿部 普通は表紙と見返しを糊付けしているケースが多いですよね。この本は糊付けしていませんが、しないことには何か狙いがあるんですか。
鈴木 めくるとき、ストレスがかかると、すこし読みづらさを感じてしまうので。あまり気づかれにくい場所ではあるのですが、表紙の紙のかたさとのかねあいで、貼らないほうがいいなと考えました。
阿部 やっぱり意味があったんですね。(中編に続く)
1986年3月7日生まれ。埼玉県出身。中学3年生からアメリカンフットボールをはじめ、高校・大学と計8年間続ける。2008年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、電通入社。人事局に配属されるもクリエイティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCM「生徒への檄文」篇の制作に携わる。作詞家として「向井太一」「円神-エンジン-」「さくらしめじ」に詞を提供。Superflyデビュー15周年記念ライブ“Get Back!!”の構成作家を務める。2015年から、連続講座「企画でメシを食っていく」を主宰。オンライン生放送学習コミュニティ「Schoo」では、2020年の「ベスト先生TOP5」にランクイン。「宣伝会議賞」中高生部門 審査員長。ベネッセコーポレーション「未来の学びデザイン 300人委員会」メンバー。「企画する人を世の中に増やしたい」という思いのもと、学びの場づくりに情熱を注ぐ。著書に『待っていても、はじまらない。ー潔く前に進め』(弘文堂)、『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(ダイヤモンド社)、『それ、勝手な決めつけかもよ? だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。