期待される労働市場の流動性の向上
今後、わが国の労働市場は、徐々にではあるが、これまでの硬直的な労働市場の慣行から抜け出すことができるかもしれない。本来、働く人の賃金は年功などではなく、実績に基づくべきだ。そこに競争原理があるからこそ、人々は自己研さんに励む。
わが国の雇用慣行は、ある意味、そうした活力を抑えてきた。厚生労働省が公表した『令和4年版 労働経済の分析(労働経済白書)』によると、わが国の労働移動の水準はOECD加盟国平均の半分程度で推移している。本書では、わが国における労働移動の低さは、既存の産業から成長期待の高い分野への労働力の再配分を阻害したと考察している。
それはまさに、バブル崩壊後の「失われた30年」に陥った一因といえる。中途採用の増加は、「従来の雇用慣行を続けると縮小均衡は免れない」と危機感を強める企業の増加を示唆する。
長期的に考えると、中途採用の増加によって硬直的な慣行が打破されることは、経済全体にも個々人にとって好ましい影響を与えるだろう。実力に合わせて適材適所で人員を登用し、長く活躍してもらいたいと考える企業は増えている。実力ある人材は引く手あまただ。
従来の年功序列の賃金体系では考えられなかった高い賃金水準を提示し、中途採用による人材確保を急ぐ企業も多い。23年の春闘で賃上げを表明する企業が増えた背景にも、個人のチャレンジやその成果をより高く評価し、新しい需要創出を加速させる狙いがある。
人口減少、経済環境の大きな変化に対応して生き残りを目指すために、適材適所で人材を登用する考えは一段と高まるだろう。老若男女を問わず、一人一人がやりたいことや関心のある分野で新しい理論を習得するなど学び直しを進め、実力を磨くことの重要性がさらに高まる。これまで以上に、優秀な人材、即戦力になる人材の市場価値が問われ始めている。