たとえば、カカオに関しては、「トップバリュ」で販売するチョコレートのカカオを全て、2030年までにフェアトレード認証ラベル付きの商品に切り替えることを目指す。

 また、生産や運送過程などで実質的にCO2排出をゼロとする食品販売についても、国内初事例として実現することを目指している。緒に就いたばかりの日本のゼロカーボン食品の取扱いの先駆者として、まずはイチゴから順次取り組むと発表された(販売価格は既存価格に据え置き)。

 令和4年度第3回消費生活意識調査(消費者庁)によると、エシカル消費を実践したい、またはもっと実践したいと思う条件として、「同種の商品・サービスと価格が同程度であったら」との回答が最多だ。価格据え置きのゼロカーボン食品が世に浸透する可能性は高い。

 イオンのサステナビリティへの取り組み姿勢は、消費者だけでなく、働き手としての若者の琴線にも触れる。マイナビの2023年卒版就職企業人気ランキング(業種別)によると、百貨店・スーパー・コンビニにおいてイオンは1位に輝いている。優秀人材の獲得は、将来の企業価値向上の必須条件だ。

先進事例の教え
ステークホルダーと価値観を共有せよ

 ESG経営への時代の要請が高まり、TCFDや人的資本をはじめ、多くの情報開示フレームの義務化が進んでいる。また、GPIFなどの年金基金のESG指数採用やエシカル消費気運の高まりなど、ESGの取り組みを評価、後押しする外部環境も整ってきた。

 しかし、こうした制度や環境の変化を漫然と受け止め、外形的かつ受け身の姿勢でESG対応を進めるだけでは、本当の企業価値向上にはつながらない。

 本稿で紹介した3社はほんの一部の事例だが、ESG戦略の要諦は、サステナビリティの取り組みを自社のあらゆる経営判断(情報開示、商品、人材、資金調達)とアライン(同期)させながら、あらゆるステークホルダーと価値観を共有することだ。

 本連載の最終回となる次回記事では、本稿で取り上げたB2C企業に続き、製造業をはじめとするB2B企業の取り組みを紹介する。

(フロンティア・マネジメント コーポレート戦略部門 企業価値戦略部 アソシエイト 中島拓海)