個人を大切にするとはどういうことか?
ここで、個人=個を大切にするとはどのようなことか、あらためて考えてみましょう。多くの経営者が「個が大切だ、個々の力を結集して……」といった表現をします。
ただ、このことが本当にできているかと一人ひとりに問いかけてみると、実際にできている経営者は少ないのではないでしょうか。社員数百人の会社の経営者ですら、個が大事といいながらスタッフの名前を憶えていない人がたくさんいます。
名前で呼びかけるというのは、簡単なようでいて、じつはとてもむずかしいことなのかもしれません。
名前で呼ばれないと、どうしても距離感が大きくなってしまう。上の立場の人は、部下に親近感をもってもらえません。このなかで、「ガンバレ!」と上から発破をかけても部下がなかなかがんばれないのは、日本企業でも外資企業でも同じなのです。
欧米の「個人を大切にする」という視点は「あなたを尊重します」ということであり、日本人の「個人を大切にする」という視点は「匿名の個人という存在を大切にする」ということなのかもしれません。
その点で、「あなた」を大切にすれば「私とあなた」の間には信頼関係が生まれます。それがモチベーションやマネジメントのスタート地点です。「匿名の個人を大切にする」では、どこまでいっても信頼する対象には出会えません。上司にしてみれば、「尊重している相手は誰なのか」という疑問を自覚できないまま、匿名の個人のモチベーションを高めたり、マネジメントしたりしなければならないのです。極端にいうと、いまの日本企業は、誰を尊重しているかがわからないまま、ロジカルシンキングやフレームワーク思考を取り入れているように思えてなりません。
「あなたを尊重している」と明確に示すほうがスピーディで実のあるビジネスを展開できます。個人を大切にするとは、こういうことなのです。
個人を尊重する人は、他の人から尊敬される
上司と部下との距離感、互いの親近感というものは、ビジネスを展開していくうえで大きな影響を与えます。
上司と部下との距離感、互いの親近感は相手である個人を尊重しているかどうかで変わってきます。個人を尊重できない人は組織全体をストラクチャーと考え、メンバーをそのストラクチャーのなかの歯車かネジのように考えがち。つまり、取り替えがきくものと考えるのです。
一方、個人を名前で呼び、尊重する人は、組織全体を尊重している個人の集合体と考えます。エピソード1の話に戻ると、一人ひとりビジョンや夢をもった、取り替えのきかない存在と考えるのです。
リーダーがメンバーを個人として尊重すれば、メンバーはそのリーダーを尊敬します。そして、互いに尊敬しあえるので、多くの人望を集めるようになるのです。