“PBR1倍割れ問題”を巡る「東証の真の見解」とは?キーパーソンを直撃Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 本連載では、企業の代表やアセットオーナーなどへのインタビューを通じ、ステークホルダーとの対話や対外戦略におけるヒントを12回にわたって掲載している。2回目は、3月に東証上場企業に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等」の要請を行った、東京証券取引所の池田直隆氏。

“PBR1倍割れ問題”を巡る「東証の真の見解」とは?キーパーソンを直撃東京証券取引所 上場部 企画グループ 池田 直隆 統括課長

資本収益性を高める経営を

──東証は3月31日、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」という要請を行い、(1)資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応、(2)株主との対話の推進と開示、(3)建設的な対話に資する「エクスプレイン」のポイント・事例、の三つの資料を公表しました。特に(1)は「PBR(株価純資産倍率)1倍割れを問題視した内容」と受け止められています。要請の経緯を教えてください

 今回の要請の起点になったのが、東証が2022年4月に行った市場区分の見直しと、それに対するフォローアップ会議だ。プライム、スタンダード、グロースの3区分に市場を再編し、それぞれの上場基準についても流通株式時価総額基準の引き上げなどの点で見直した。

 当時「プライムの会社が何社になった」といった市場ごとの企業数が注目されがちだったが、各区分の社数構成自体は目的ではなく、真の狙いは上場企業の企業価値向上を促す環境を整備することにあった。

 そのうちの一つが、上場維持基準の引き上げだ。上場基準を満たしていない企業は、経過措置として選択した市場に一定期間残留できるが、期間内に基準を満たす必要がある。そのため、収益・財務構成の改善や資本政策の見直しなど、企業価値向上に向けた努力を行うインセンティブが働く。

 しかし、経過措置の対象企業は510社(22年末時点)。東証に上場する残り約3,300社については、実質的に関係のない話だ。すべての上場企業の企業価値向上を促す観点で、さらなる仕掛けが必要だった。

 そうした課題を受けて、22年7月から投資家や上場企業経営者も参画する「フォローアップ会議」を継続的に開催し、論点整理を行った。議論をもとに取りまとめたのが3月の要請だ。なお、「当分の間」としていた経過措置の適用期間は、4月1日付で「新市場区分への移行後3年」とする規則改正を行っている。