ロボットは無機物であるがゆえに、新陳代謝をしません。そのため不具合が起こっても自己治癒できません。かならず修理が必要になります。ましてや、1万点以上の部品が使われる高度なロボットの場合、その修理はかんたんではありません。修理用の部品は、とてつもなく長いサプライチェーン(原材料の調達、部品の製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れ)を経て、供給されます。ロボットが自らを修理するには、多くの人類やそのほかの機械の安定的な協力が必要です。
ロボットにとっては、そもそも人類と共生するのが唯一の生き残る道であり、人類とテクノロジーは(少なくともロボットにとっては)運命共同体なのです。これは、ほかの生き物と人類の生存競争における関係性と比べてみると、決定的に異なる部分です。
人類を含む生き物は、子孫を残すために生き残りをかけた自然淘汰を経て進化してきました。生き物は、(人類と共生するものがいても)人類のために生まれてきたわけではありません。それぞれの種をつなぎ、それぞれが生き永らえるためのシステムが、それぞれの生命のなかで働いています。それに対してロボットは、人類のために生まれてきたものであり、自らの子孫の繁栄を望む動機がありません。生き残りへの執着を持つ必然性がないのです。
ただこれは、あくまで「ロボットが寿命や子孫を残すための生殖機能を持たない」という前提で言えることです。
では、たとえば「ロボットが生物同様に子孫を残すことが可能になったら」という仮定を持つと、別のおもしろい空想が広がります。その場合、実際にはロボット工学の話から離れて、バイオテクノロジーの一種である遺伝子工学の話になります。
バイオテクノロジーが
常識を劇的に変える
バイオテクノロジーは、AIやロボットと同じく、未来を変える重要な技術です。
ノーベル賞を獲った山中伸弥教授の「iPS細胞」がよく知られていますが、身近な例では、花の品種改良もバイオテクノロジーの1つです。2000年代初頭に、人類史上初めて「青いバラを確認した」というニュースが流れました。あれもバイオテクノロジーの産物です。
そしてもう1つ、歯の治療方法として普及している「インプラント」もバイオテクノロジーの1つと言えます。歯の代わりに「歯科インプラント」と呼ばれる器具を埋め、そこに義歯を付ける治療方法として知られていますが、今後はたとえばインプラントにセンサーを埋め込むことによって、自分の食べているものや腸内環境をチェックできるようになるかもしれません。また義歯以外にも、さまざま機械をインプラントとして身体中に埋め込む治療法が普及していくでしょう。
このように生き物の遺伝子に関する領域もあれば、生体にメカを組み合わせるような領域もあります。免疫系の改善や遺伝子疾患の予防というアプローチもあれば、人工心臓や人工関節のように、有機物と無機物の融合によるアプローチもあります。