これらの技術が発展していくと、ぼくらの生体のどこかに無機物が入り込み、「体がすべて有機物で構成されていること」のほうが稀になる日も遠くないと思われます。インプラントに代表されるように、ぼくらはすでに自分の体が有機物と無機物の混合になることを自然に受け入れているのです。
眼科の世界では「眼内コンタクトレンズ」と呼ばれる、眼球に直接埋め込むタイプのレンズによる視力矯正も普及してきました。将来的には、そのレンズに映像を投影する装置を入れることで、情報を表示させるような技術も実用化されるかもしれません。
難聴の人には、人工内耳があります。人工内耳であれば、加齢による聴覚の衰えが減少するうえ、スマホと連携して音楽まで聞けて、さらに必要に応じてマイクを外すと完全な静寂も手に入れられるので、健常者の聴覚より便利な機能がたくさん実現されています。
パーキンソン病の外科治療では、脳に電極を埋め込む深部脳刺激療法(DBS)という治療も行われています。その応用として、適切なタイミングで電気刺激を与えることで、狙った条件下で人類のモチベーションを高めるということも技術的には実現できる可能性があるようです(英語が苦手な人に対して、英語を聞いたらワクワクするように促すといったことです)。
そして、遺伝子を操作してヒトを改変する、いわゆる「ゲノム編集」の是非も問われるようになるでしょう。さまざまな問題を孕(はら)んではいるものの、遺伝子を改変したホモ・サピエンスが出てくるのは、時間の問題です。
ロボットが自ら生殖して進化する未来を恐れるより遥か手前で、現在の人類とは異なる新たな人類が、バイオテクノロジーによって生まれていく。その過程で、社会や価値観も劇的に変化していきます。
ヒトも変わっていく
その流れはもう止まらない
ヒトとロボット、有機物と無機物、自然と人工、その差は「かぎりなくなくなっていく」というよりも「かぎりなく入り混じって」いきます。
以前に、「メカを着る」というコンセプトでウェアラブルロボットを開発しているクリエイターの「きゅんくん」が、「WIRED」というメディアからこんな質問を受けていました。「10年後、あなたが拡張したいと思う身体の部位は?」。
「拡張するとしたら腕を拡張します。はんだごてを持つ手と、はんだを持つ手と、部品を抑える手が必要で、3つ必要なんですけど、3つ人間に腕がなくて難儀するので」
また「きゅんくん」は、身体拡張があたりまえになった世界で起こる問題についても、「とくに思いつかない」と答えていました。だれもが腕の付け替えや増減が自由になれば、腕がないことがハンディキャップにならず、「それがフラットな状態でいい」と。
ここから想像をより膨らませてみましょう。