写真:エプロン,女性,悩む,考える写真はイメージです Photo:PIXTA

1人でこなせる仕事量に限りがある中で確実に成果を出すためには、「何をするか」でなく「何をしないか」を見極めるべきだ。内田和成の『論点思考』(東洋経済新報社)から、論点を上手く設定するために必要な視点の変え方を学ぶ。

※本稿は、内田和成『論点思考』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです。

視野・視座・視点の三要素で論点思考を高める

 論点思考を高める上で大事なことは、「与えられた課題に疑問をもつ」に代表されるような、つねに違った視点でものを見たり、考えたりする癖をつけることである。しかし、視点を変えてものを見ることはたやすいことではない。

 そこで私は視点以外に視野と視座を加えた三要素を大事にするようにしている。なぜなら、三要素のうち視野と視座はすぐにでも訓練できるし、成果もあげやすいからである。

視野─普段あまり見ていない方向に眼を向ける

 視野が広いといえば、自分の眼をいつも見ている方向だけではなく、三六〇度の視野でものを見ることができる人のことをいう。論点思考で大事なことは、つねに広い視野でものを見ることで、これまで見過ごしていたものに注意を払うことである

 ついつい目の前の事象や論点にとらわれがちなのを、後ろから見たり、横から見てみたりすることで新しい論点が浮かび上がってくる。

 例えばある企業でコスト削減のプロジェクトをやっているときに、これまでもやってきたことではあるが、原材料調達費の削減、部品の共有化、品種の削減などをあらためて検討していた。しかし、どうしても解が見つからない。

 そこで、違った見方をしてみようということになり、そもそものコスト構造がどうなっているのかという原点に返って、調べてみた結果、そのメーカーの生産規模では生き残りが不可能なことが判明した。要するに個別の要素コストをいくら下げても、全体としてのスケールメリットのほうが効くために、コスト競争力がつかないことがはっきりしたのである。

 この場合は普段着目している部品単品のコスト削減や製品の単価を下げるのではなく、総コストという見方をした結果、真の論点が浮かび上がってきたわけである。

 蛇足ではあるが、論点がわかれば、まったく新しい製造方法を考えるとか、M&Aで必要な規模を確保するとか、具体的な解決策は比較的簡単に出てくる。もちろん、実行は容易ではないが、議論はすっきりするわけである。

 では、こうした視野を広げた見方をするためにはどうしたらよいであろうか。

 一つは普段あまり気にしていないことに注意を向けてみることである。例えば商品開発力に定評のある企業であれば、逆に生産現場や営業現場の視点でものを見てみる。あるいは国内中心の企業であれば、海外市場や海外の競争相手に目を向けるなどもあるだろう。

 もちろん個人の立場で考えることも可能だ。営業の人間であれば普段は顧客や流通など、自分の売り先のことばかり考えているわけであるが、逆に社内の事務部門や開発・生産部門に目を向けることで違った視点が生まれてくることが多い。

 もう一つは、相手の靴を履いてみる方法である。自分が相手だったら、この問題はどう考えるかととらえ直すことで違った見方ができることも多い。

視座―二つ上のポジションに就いているつもりで仕事をする

 視座とは、物事を見る姿勢や立場のことだ。平たくいえば、より高い目線で物事を見ることをいう。高い目線とは、役職の高さもあれば、鳥の眼的な高さもある。

 例えば、私は自分が教えているビジネススクールの学生たちに、つねに実際の自分よりも二つ上のポジションに就いているつもりで仕事をするようにといっている。一つ上ではない。平社員ならば係長ではなく課長、課長ならば部長ではなく本部長、平の取締役であれば常務ではなく社長の立場でものを考える。

 一つだけ上のポジションから見ようとすると自分自身のことと関連づけて物事を見てしまう、あるいはどうしても自分の利害が絡む。二つ上から見ようとすると、自分の立場を離れて考えることができる。二つ上の立場でものを考えることによって、自分のいま抱えている課題すなわち論点がより明確に浮かび上がってくるものだ。

 あなたが九州の営業所の営業マンだとしよう。取引先からある大きな商談が舞い込み、意気揚々と出かけると、取引成立の条件は大幅な値引きだともちかけられたとしよう。この条件は、本社の決めた価格ガイドラインをさらに一割近く割り込む到底承認の下りそうもない価格だ。

 さて、あなたはこの問題をどうとらえるだろう。自分の問題としてとらえれば、もちろん価格を下げて条件をのみこの商談をぜひ成功させたい。これが決まれば、今期の営業ノルマ達成は間違いない。したがって、いかに値引き額を最小にしてこの商談を成功させるかが論点となる。