一方で、あなたの上司の営業所長の立場でこの問題をとらえてみよう。話は少し複雑になってくる。まずこの商談が成立すれば、営業所の業績をかさ上げすることは間違いないが、これだけで営業所のノルマを達成するにはほど遠い。一方で、あなたの取引先だけに好条件を出せば、万が一取引価格がばれたときには他の取引先から文句が出るだろう。あるいは、自分たちにも同じ条件を出せということになりかねない。そうなると、売上目標は達成しても利益目標からはほど遠い結果になる。

 一方で、この取引はあなたの営業マンとしての自信につながることは間違いない。モチベーションマネジメントの観点からはぜひ、成立させてやりたいと思う。

 これが本社の営業部長の立場、すなわち二段階上の視点で見るとどうなるだろう。例えば、あなたの取引しようとしている先は全国チェーンの九州支店だとすれば、ことはやっかいだ。一地方で値引きを認めてしまえば、それが相手の本部との取引に悪影響を与えることは間違いない。したがって、いくら九州支店の業績アップになるとしても、あるいはあなたの育成につながるとしてもノーだ。なぜならば、ことは全国の価格政策の問題だからだ。

 一方、この取引先がローカルの小さな取引先だとしよう。したがって、ここに値引きをしたところで、本社あるいは全社に対する影響はあまりないとする。この場合でも結論はやはり、ノーになるだろう。というのは、本社が決めた価格政策は守らなくてもいいのだというメッセージが営業全体に発せられてしまう可能性が高いからだ。

 仮にあなたの取引の値引きが認められるとしたら、どんな場合が考えられるだろう。一つは、売ろうとしている商品が他では売れる可能性のない商品で、あなたの取引先で引き取ってくれるのであれば、いい在庫処分になるケースだ。あるいは年度末で、この取引が成り立つかどうかで全社営業成績が対前年比プラスになる分岐点の取引の場合などだ。

 もちろん、なにが正解かはわからないが、このように二つ上の立場でものを見ることで、自分の抱えている課題の性質や本質すなわち大論点が見えてくることが多い。ぜひ試してみてほしい。

(中略)