ただ、この文書には有効期限が設けられており、それを3年としていた。だからこそ、その文書が今年10月切れとなる直前に「問界」モデルが「HUAWEI」を冠したことに、業界には「やはり」というムードが走った。

 ご存じの通り、ファーウェイといえば、2019年前半までは日本を含めグローバルでスマホ製品が大きな人気を集めていた。だが、この年の後半から当時のトランプ・米大統領が声高に対中制裁を開始し、その矢面に立たされたファーウェイは米国企業との取引が一切できなくなった。米国企業からの半導体や部品の買い付けができなくなったことに加え、米Google社のAndroid OSとその関連サービス(アプリポータルのGoogle Playなど)を一切利用できなくなった影響は甚大だった。

 結果、メイン事業だったスマホ・通信機器の売り上げが激減。中国国内ではそれを受けて「ファーウェイ支援」の声が高まりはしたものの、それでもユーザー離れは止まらなかった。お手頃価格のスマホとして人気のあった「栄耀(Honor)」モデルを国営企業に売却して現金化。2022年末の国内スマホ売り上げでもトップ5位に姿はなく、「その他メーカー」として残りわずか15.6%の市場を分け合っている状態だ。

 現時点では、使えなくなったAndroid OSの代わりに自社開発のOS「鴻蒙」を搭載した製品や敷衍したインテリジェンス化製品などを販売している。さらにその技術力をもって、現在の中国で急成長しているスマートカー事業に乗り出した。

技術力を生かし、HIスタイルで
自動車メーカーと広く協業するはずが……

 ファーウェイの自動車業界へのアプローチは3つある。一つは部品業者として単純に部品を納品するパターン。これは伝統的な自動車業界で受け入れられやすいものの競争が激しく、また利益率もそれほど高くない。そこで、ファーウェイが当初最も力を入れたのが“Huawei Inside”、つまり自動車メーカーにスマートカーソリューションを提供するという「HI形式(HIスタイル)」と呼ばれる二つ目のアプローチだった。

 中国で急成長するスマートカー分野はスタートアップが雲集しており、ガソリン車で大きな市場を握ってきた伝統的自動車メーカーには出遅れも目立つ。HIスタイルはそんな伝統的自動車メーカーをターゲットに、ファーウェイが最も得意とする技術的ソリューションを提供する。それによって自分たちにとって未知の分野である自動車造りへの巨額投資を回避しつつ、得意のIT技術力でスマートカー分野に進出することができるというのがファーウェイ経営陣の読みだった。

 また、HIスタイルならさまざまな車両メーカーと広く協業が可能となる。ファーウェイのトップも「世界に自動車メーカーは事欠かない。だが、不足しているのはコネクテッドカー分野における基本サプライヤーだ」と公言し、HIスタイルこそが自社技術に自信を持つファーウェイにとって理想的な道だと強調していた。

 だが、このファーウェイと自動車メーカーにとって「ウィンウィン」のはずだったHIスタイルが座礁し始めている。