「プロでは通じない」といわれた
ロングスローを取り入れた理由
プロでロングスローの経験があるDF翁長聖を、その大役に指名した理由を黒田監督はこう語る。
「ゴールが欲しいときには、われわれの武器の一つとして活用していく。サッカーでは非常に重要だと考えて、キャンプからトレーニングしてきました」
要は青森山田での堅守速攻スタイルを、強力な個の力を加えながらスケールアップさせていく。もっとも、高校時代は現実的なサッカーを貫き、何よりも勝利を最優先に求めたあまりに、一部のファンからは「退屈」や「つまらない」といった厳しい言葉も寄せられた。
プロの世界では、さらにネガティブな視線が向けられかねない。それでも、指揮官が貫こうとする不退転の決意は、新体制が始動した直後に選手たちへ、勝者のメンタリティーを具現化させるキーワードの「勝つ、イコール、守れる」とともに伝えられた。先述のボランチ、下田がこう振り返る。
「全体ミーティングでは、ストレートに『勝ちにこだわりたい』と言っていました。プロの監督はみなさん同じような表現をしますけど、こだわりをより強く感じたというか。
やりたいサッカーや戦術はいろいろとあるかもしれませんけど、それよりも戦う姿勢やチーム全体で一体感を持つところなど、サッカーの本質的な部分をすごく大事にしている監督だと思いました」
目標をJ1昇格に据えた上で、沖縄キャンプでは北海道コンサドーレ札幌、京都サンガ、鹿島アントラーズ、サンフレッチェ広島とあえてJ1勢との練習試合を組んだ。結果は4連勝。しかも、この間も複数失点はなかった。相手が開幕前の調整段階だったとはいえ、自信が膨らまないはずがない。
しかし、黒田監督の視線は開幕以降の戦いを見据えながらも、その中でもJ1昇格を争うとみられた最大のライバルへ向けられていた。ホームの町田GIONスタジアムに、昨シーズンまでJ1で戦っていた清水エスパルスを迎えた21日の第17節を、指揮官はこう位置づけていた。
「ここまでの成果や経験といったものを、ついに発揮するときがきた、と。われわれはキャンプから積み上げてきた守備のベースに手応えを得て、開幕後もそれを継続させることで必ず結果が出ると、選手たちに信じさせながらここまで戦ってきた。
清水さんは間違いなくJ1で戦える戦力を持っている。それでも積み上げてきたものを確信に変えて、自信を持って試合に送り出せたと思う」
カタールW杯日本代表の守護神・権田修一、元日本代表のFW乾貴士、昨シーズンのJ1得点王チアゴ・サンタナらを擁する清水との大一番。前半31分に先制したのは町田だった。