観客動員数も増え
サポーターと共にJ1へ
こうした戦術で町田ゼルビアを劇的勝利に導いた黒田監督だが、新体制が始動した直後は、選手たちも「高校サッカー界屈指の名将とは、一体どれほどの人物なのか」と問うような目線で黒田監督を見ていたかもしれない。しかし、キャッチーな「勝つ、イコール、守れる」を介して伝えられたイズムが、キャンプを含めた実戦で成功体験を重ねるごとに町田を内側から変える触媒と化した。
そして実は、高校サッカー界からダイレクトで、Jクラブの指揮官に転じたのは黒田監督が初めてとなる。前例がないからこそ、黒田監督も「不安がなかったと言えばうそになる」と本音を明かす。
とはいえ、チャレンジなくして成功も収められない。清水戦で先制点を決めたMF平河が「キャンプから取り組んできたことはうそをつかない」と語るように、いまでは町田に関わるすべての人々が描くベクトルが一致している。
清水戦はクラブ史上最多となる1万444人の大観衆が駆けつけた。ゴール裏を清水のファン・サポーターが埋めた影響もあるものの、今シーズンの平均4895人をはるかに超越した。集客で大苦戦してきた町田の歴史にも、大きなターニングポイントが訪れようとしている。
「夢や感動を得たいと思うと、自然と足を運んでいただけるんだと実感しています」と黒田監督は語る。
年間42試合を戦うJ2戦線は、まもなく折り返しの21試合を迎える。まだまだ予期せぬ事態に直面するかもしれない。それでも新体制の象徴として招聘(しょうへい)された黒田監督のもと、堅守速攻を含めた「何でもできるチーム」を完成形に描きながら、まだ見ぬJ1を目指す町田の挑戦は続いていく。