期待される“令和版ソニーやホンダ”の登場

 過去30年以上、わが国では実質ベースで賃金が伸び悩んだ。わが国は持続的な賃上げを目指す極めて重要な局面を迎えている。企業に求められることは、収益分野を拡大して賃上げの原資を増やすことだ。

 それが難しい場合、企業収益は伸び悩み、賃上げは一時的な現象にとどまる。その状況が続くと経済の縮小均衡は加速し、わが国が世界第3位の経済規模を維持することも難しくなる。その展開は何としても避けたい。

 企業が収益分野を拡充する選択肢の一つは、新しい商品の創出に取り組むことだ。かつて、わが国にはそうした考えを積極的に実行する企業が多かった。代表例は、1946年に誕生したソニー(当時は東京通信工業)や、1948年創業のホンダだ。

 ソニーが、トランジスタラジオで磨いた音響関連の技術を用いて、より良い音質で音楽を楽しみたいという願望を実現しようと生み出したのが、「ウォークマン」だった。また、ホンダは二輪車で磨いた内燃機関の製造技術を駆使し、CVCCエンジンを開発し高い走行性と燃費性能を確立した。

 そこに共通するのは、最先端の理論や製造技術と「人々により良い生き方を」といった思いを結合し、商品化を実現したことだ。それによってソニーのウォークマンは「ポータブル音楽生成機器」、ホンダのCVCCエンジンは「低燃費車」という世界に新しい市場を創造した。

 ソニーは音楽再生機器やCDなど、ホンダは四輪車や航空機へ事業領域を広げ、収益分野は増えた。それが一時期の両社の高成長と、給料の増加を支えた。

 最近では、世界の半導体大手企業が対日直接投資を積み増すなど、わが国の製造技術の重要性は高まっている。そうした環境変化をうまく活用して本邦企業が収益分野を拡充し、高付加価値の新しい商品を提供できれば、賃金上昇の持続性は高まるだろう。わが国にはそれが必要だ。