板金加工機のアマダが給与15%引き上げの訳

 わが国の雇用慣行にも、ようやく変化の兆しが出始めた。これまで多くの企業は、新卒一括採用、年功序列、終身雇用を続けてきた。毎年度、企業は新卒学生を一括で採用した。「和を以て貴しとなす」の考えに基づき、業務を通した教育(OJT)が行われゼネラリストが育成された。

 一定の時間が経過すると、従業員は年功に基づいて昇進する。給料も上がる。成績が良い人などが管理職、さらには役員に抜てきされる。組織内、あるいはグループ企業内で労働力の過不足を調整する形で人事異動が行われ、定年退職まで勤め上げる――。ある意味、わが国では企業内に独自の労働分配メカニズムが整備され、労働市場の流動性の向上は遅れた。

 しかし、バブル崩壊後、わが国の雇用環境は企業の成長促進よりも「足かせ」の側面が増えたと考えられる。国内では急速な資産価格下落により、企業経営者、家計、政府のリスク回避的心理は高まった。

 一方、世界経済は急速にグローバル化し、デジタル家電などの国際分業が加速した。製品の設計開発から生産、販売などを自己完結したわが国企業のビジネスモデルは優位性を失った。2008年以降は人口減少も加速した。経済の縮小均衡を背景に、専守防衛型の経営を優先する企業は増えた。

「従来の労働慣行のまま、成長性を維持することは難しい」――。こう気づいた企業から動き始めている。一例として、板金加工機世界大手のアマダは、25年の給与水準を現行から15%引き上げる。高い専門性を持つ優秀な人材を確保するために、競争力ある賃金を提示しなければならないとの危機感は強いといえる。また、ビール業界では、マーケティングのプロを経営トップに登用して、新商品開発や販売戦略の強化を目指している。