「組織内の心のケア」が最重要と思っている異常な危機管理

 まず、(1)の相談窓口の開設に関しては、「タレントへの心のケアが最重要と考えております」(ジャニーズ事務所プレスリリース)ということだが、もし一般企業がこんな主張をしたら全方位から叩かれて大炎上する「失言」である。

 このような問題が起きた時、「社内」だけではなく、顧客や取引先、そして社会全体という「社外の幅広いステークホルダー」への対策もしっかりと提示しなくてはいけないというのは、企業危機管理の基本中の基本だからだ。

 今回のケースで言えば、まずは「大好きで生きる希望を与えてくれるあのアイドルも、実はデビュー前の少年時代はわいせつ行為を受けていたかも」とショックを受けているファンの心のケアも「最重要」だ。

 また、そのような「性犯罪」イメージがついた芸能事務所に所属しているアイドルを、何億円もかけて自社製品やサービスの広告キャラクターに起用している企業へのケア、つまりは社会全体が納得するような「説明責任」を果たすことも「最重要」である。

 だが、ジャニーズ事務所はそういう「ステークホルダー」への配慮がごそっと抜けて、「所属タレント」という「組織内のケア」を最重要だと断言している。これがいかに異常な危機管理かということは、一般企業に置き換えればわかりやすい。

 例えば、ある有名企業で亡くなった創業者が生前、社内の女性たちを片っ端からセクハラ、わいせつ行為などをしていたという報道があったとする。被害者の一人は記者会見まで開いて、自分の他にも多くの被害者がいると訴えたとしよう。

 そこで、この企業が創業者が亡くなっているので事実関係の調査をしません、その代わりに「心のケア相談窓口の開設」をします、とペラっとリリースを出したらどうか。

 その有名企業の製品やサービスを愛用している消費者は「ああ、被害者のプライバシーの問題もあるからしょうがない」と納得するだろうか。その有名企業の取引先も「いくら被害を訴える人がいても、創業者が亡くなっているからこんなもんだろ」と、この対応を理解するだろうか。

 するわけがない。マスコミはその不誠実な対応に怒り、その日からワイドショーでは「祭り」が始まるのは間違いないだろう。

 こんな深刻な性犯罪を調査もせず、相談窓口を設置するだけとなれば、「心のケア」という名目で、被害者を把握して、言葉巧みに口封じをしているのではないか――という隠ぺいの意図が透けて見えるからだ。