「中国封じ込め」の位置付けである
クアッドは“不発”に終わる

 G7の顔触れは、イタリア、米国、英国、カナダ、ドイツ、フランス、そして日本だ。ヨーロッパ勢が7カ国中5カ国を占める。今のヨーロッパ各国にとって「外交」といえば、ウクライナ戦争である。彼らはウクライナの味方ではあるものの、とにかくウクライナ戦争を早期に終結させたいという強い意志を持っている。

 しかし、米国と日本は違う。米国はウクライナの最大の支援者であり、ウクライナ戦争を早く終わらせたいという気持ちもあるだろうが、頭の半分には「対中国」がある。米国内にとってみれば、経済的なライバルである中国の封じ込めをどうするかの方が大事であろう。

 日本は、「安倍外交と比べ、米国とは少し距離を置いた自主外交をしなくなった」とロシアから失望はされているものの、事実上、ウクライナに対して平和的な支援しか行っておらず、ロシアからの非難は軍事援助をする国と比べてトーンが一つ下がっている。サハリンを含め、日本の権益は多くロシア国内に残っている。そして、最大のライバルであり、軍事的脅威でもある中国問題を前に進めたいという思惑を持っている。

 こういった前提があるからこそ、G7の後に大々的にオーストラリアで開催される予定だったが「50分」に縮小して広島で行われたクアッドは、大きな意味を持つとされていた。米国とオーストラリア、日本という中国に強い懸念を持つ3カ国に、さらにインドを加えて、中国の封じ込めが共通の利益となるという枠組みだ。

 インドは、中国を心の中では封じ込めたいとしているものの、中国とは国境を接していて、軍事的緊張を高めたくないという思惑をもっている。他の日米豪は、このインドに中国封じ込めの輪に加わってほしいと願い、あの手この手を用いて籠絡(ろうらく)しようとしているのが現状だ。

 国際社会へ送るシグナルとしては、「G7は対ロシア」「クアッドは対中国」だったのである。しかしクアッドの方は、たった50分では実質的な議論はできなかったであろう。首脳会合後に発表されている会議の内容も、「会合で4人の首脳は、東シナ海・南シナ海への進出を強める中国を念頭に、インド太平洋における力や威圧による一方的な現状の試みに深刻な懸念を表明し、強く反対していくことで一致しました」とNHKニュース(5月21日)で報じられているものの、外務省のホームページ(HP)で「日米豪印首脳会合共同声明」の全文を確認したら「中国」という文言が入っていなかった。残念な部分だろう。