AI生成・陰の面
現実の女優に似てしまう可能性
まず、もっと表層に見える問題は、例のAIモデル“さつきあい”が実在の誰それに似ているのではないか、という指摘である。
「似ている」とちまたで名指しされている女優の名前を挙げることは当記事では避けるが(そうした形でこの騒動に加担したくないため)、本人の了解を得ない形で、その女性が、“さつきあい”となってグラビアで再利用されるなんてことであれば、あまりにもひどいではないか――というわけである。
では実際、“さつきあい”とその女性が似ているかだが、こればっかりは主観によるので断言はできない。「そっくり」という人もいるし「まったく似ていない」という人もいる。だから問題は、「似ているか似ていないか」というあいまいな部分ではなく、現実に起きている「特定の人物に似ているという臆測が立ち、かつそれが問題視されること」という部分にある。
誰かに似ているとなれば肖像権が問題となる。「特定の誰かをモデルにした」として生成されたAIモデルなら肖像権の侵害に当たるであろうが、「たまたまそっくりに見える」AIモデルが肖像権を争う上でどう判断されるかは未確定で、今後の課題として残されているらしい。
肖像権と関連して著作権も大きい課題である。
AIモデル・AIイラストの生成は、AIが学習した大量の画像データをもとに行われる。大量のデータを元に新たな一作品を生み出す過程は人間の創作活動と似ている。しかし、人間ならばどうしたってそこに一さじ加えられるであろう“その人らしさ”、すなわちオリジナリティーが、AIには想定しがたいので、AIはどれだけいってもパクリではないか――という意見がまずひとつある。
そしてパクリの元、すなわち種々のデータをAIが勝手に学習することが、そもそも著作権に引っかかるのではないか――という見方も出てきている。
実際に米国では、「自分の作品を勝手にAIの学習データとして用いられた」という著作権侵害の訴訟が複数起きている。「○○風」という呪文を唱えれば、AIは容易に指定通りの○○風の作品を仕上げることができ、これが著作権をひどく侵害する可能性がある、ということである。
一方、日本はというと、著作権法の2018年の改正で追加された著作権法・第三十条の四で、「AIは、だいたいどんなデータでも無許諾で学習してオッケー」とされた。比較的近年改正された条文で、技術の進歩とAIの発展を願った懐の深いかじ取りに思われたが、まさかその改正数年後に、AIがこれほどすごいことをやってのけるとは思っておらず、学習データの著作権について再検討の必要に迫られている。