日本でも電車内で赤ちゃんが泣くことは珍しくないが、赤ちゃんが泣いていることに文句を言う大人はめったにいないし、それがきっかけで口論が始まることもほぼない。だが、中国では、赤ちゃんに限らず、ささいなことがきっかけで、公共の場で大ゲンカが起きることはよくある。

 電車内で起きたことなら、自分が他の車両に“避難”すれば済むことだが、これが飛行機だとそうもいかない。たとえば、前の座席の人が突然背もたれを大きく倒す、後ろの座席の人が前の座席の上に足を乗せる、機内中に響き渡るほどの大音量で音楽を流す人がいる、といったトラブルはよく起こる。そのたびに騒動になり、多くの人々は、ごく一部の人の犠牲となる。

「動画を撮ってSNSにアップ→炎上」が事態を厄介に

 さらにここ数年、問題を厄介にさせているのは、誰かがすぐにその場で動画を撮影し、SNSに投稿してしまうことだ。中国では他の問題もそうだが、SNS上で賛否両論が巻き起こると、次第に本題を外れて、別の話題へと発展し、元ネタが何だったかわからなくなるほどの大ゲンカがSNS上で勃発する。そうした「第二次戦争」「代理SNS戦争」ともいえるような状態が近年激しくなっており、日本のメディアでもしばしば取り上げられるようになった。

 そもそもなぜ中国では、公共の場で、そこまでわがままな振る舞いをする人が多いのか。

 考えられるのは、やはり1979年末から始まり、30年以上も続いた一人っ子政策の影響だろう。子どもは1人と政府に決められ、子どもを溺愛する親が増えた。中には我が子に何でも買い与え、「小皇帝」という別名の通り、勉強以外、すべてのことを子どもの代わりにやってあげるという親もいる。同政策の実施後に生まれた世代の最年長は40歳を超えており、年齢的にはすでに立派な大人だが、自由奔放に育てられた結果、すべてにおいて自己中心的で、自分の思い通りにならないと癇癪(かんしゃく)を起こす、我慢ができない、悪態をつく、という人が増えた。

 中国で2018~2019年頃に流行語となった言葉に「巨嬰症(ジュ―インジェン)」がある。「巨大な赤ちゃん病」、つまり、赤ちゃんのまま大人になった人を指す言葉だ。本当の病名ではなく、そのような状態になることをいう。