女性は人生で3度の介護に遭遇する

 もちろん筆者は、自宅介護を否定するわけではない。昔のように大家族で、みんなで介護ができるならいいだろう。しかし今の時代、それぞれ事情があるし、介護に正解はないはず。少なくとも、親の介護に自らの生活やキャリアを投げ打ってまで費やすのは、どうだろうか?

「女性は人生で3度の介護に遭遇する」といわれる。親の介護、夫の介護、そして自分の介護だ。夫の介護を担う女性は多い。もちろん、妻の介護をする夫もいるけれど、年齢差などから妻が夫の介護をするケースの方が多いだろう。さらに、自分の介護をどうするかも重要だ。シングル女性だけでなく、夫より長生きして最後はおひとり様になる可能性の高い日本人女性は、よく考えておく必要がある。

 親の介護の話に戻ろう。育児のように、出産までの10カ月間で準備を整えられるのと違い、介護はいつ必要になるかわからない。だから、前もって備えが必要となる。では、どんな備えが必要か? 最低限、以下の二つはやっておきたい。

その1)親の意向を確認し、兄弟姉妹で方針を相談しておく
 とにかく親が元気なうちに意向を聞いておこう。兄弟姉妹とも相談し、方針を決めておく。誰かに負担が偏らないように、感情論ではなく冷静に考えておく必要がある。

 介護の費用は、「親のお金を使う」のが原則となる。介護にかかる費用は、一時的な費用が74万円、月々の費用が8.3万円。介護期間は平均5年と1カ月。合計すると572万円かかるという(生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2021年度より)。これはあくまで平均額であり、人によって違いはあるが、基本は親のお金で用意することを第一に考えたい。そして、足りない場合はどうするかも、よく話し合っておこう。

書影『プロティアンシフト : 定年を迎える女性管理職のセカンドキャリア選択』(千倉書房)筆者の新刊が発売中です。『プロティアンシフト : 定年を迎える女性管理職のセカンドキャリア選択』(千倉書房)
田中研之輔、西村美奈子 著

その2)いざ、というときどこに相談するかを確認しておく
 急に倒れたとなれば、連絡先はまず、病院だろう。が、なんとなく、親の様子がおかしいと気づいたら、早めに専門機関に相談しよう。高齢者の暮らしを地域でサポートするための拠点として、いろいろな相談に乗ってくれる「地域包括支援センター」などと呼ばれている自治体の機関が増えている。そこには保健師、看護師、主任福祉士、ケアマネジャー(介護支援専門員)などが配置されている。離れて暮らす親の場合は特に、こうした機関にコンタクトを取っておくといい。

 介護離職はもちろん避けたいし、働くミドル世代が介護を理由にセカンドキャリアを諦めなくてもいいように、早くから意識しておくことが大事だ。