観察・予想をしつづけた生徒とは
それはナインティナインの矢部くんです。彼は今もそうですが、相方である岡村くんがしそうなことを3手先くらいまで予測しているように思います。実際にはじめてナインティナインがいるクラスを担当したとき、こんなことがありました。
最初の授業は「自己紹介」でした。挙手制で次々と生徒たちが自己紹介をしていくなか、終了時間が近くなり、最後のひとりとして大勢のなかから「君!」と私が指名したのが偶然にもナインティナインの矢部くんでした。
矢部くんが自己紹介をはじめようとしたそのとき、少し離れたところから背の低い子が急に立ち上がって「岡村隆史です!」と自己紹介をはじめたのです。なにがはじまったのかと一瞬静まり返る教室内、当時は私も講師をはじめたてだったので非常にびっくりしました。
そんなときに矢部くんが、「お前ちゃうやろ! 俺の番やろ!」とツッコみ、「かまへんやないか!」と岡村くんが返すと、あっという間に教室の空気は彼らのものになりました。
のちに岡村くんに話を聞くと「矢部が指名されたら割って入ろうと決めてました。矢部にも言っていません」ということでした。
つまり、岡村くんのアドリブを矢部くんが見事に読み切った形だったのです。冷静に相方や教室内を観察し、相方がやりそうなことを予測していたからこそできた秀逸なツッコミです。
このエピソードだけを見ると矢部くんが天才のように思われるかもしれませんが、そうではありません。彼もまた岡村くんという相方を観察し続け、なにが起きるのか考え続けていたのです。ときには「もしこんなことが起きたら、こういう切り返しもあるのでは?」と考えていたのでしょう。ちなみにこのときはまだ、矢部くんがボケ担当のときでしたので、なおさら驚きです。
当然、矢部くんのことですから、今でもひたすら観察・予測を続けながら自分の能力に磨きをかけ続けていると思います。彼のツッコミにずっとキレがあるのはそういうことでしょう。
すでにおわかりの通り、頭の回転が速いというのは特殊能力でも何でもありません。ものすごく地道な努力のうえに成り立っているものです。むしろ努力なしの「頭の回転の速さ」は伸びしろが少ないためどこかで限界が来てしまうようにも思います。
この、観察・予測を基点とした頭の回転の速さはお笑いに限らず、ビジネスの世界でも確実に使えるものですので、皆さんもぜひ意識して見てください。