中央区副区長「ばかげている」批判の訳

 状況に変化が訪れたのは13年9月、東京五輪開催が決定して以降だ。晴海地区の選手村は会期終了後の住宅転用が決定していたため、人口の大幅な増加が確実視された。

 しかし、中央区は独自に、都心部から有明・東京ビッグサイトなどに至る「都心部・臨海地域地下鉄構想」(通称・臨海地下鉄)の検討を開始した。この時点で、晴海地区には「臨海地下鉄」と「ゆりかもめ延伸」の2つの鉄道計画が存在している。

 人口増加が見込まれるとはいえ、さほど広くないエリアで2路線となると、利用客を奪い合い“共倒れ”する可能性もある。また、ゆりかもめが晴海~豊洲を結ぶと、晴海から都心への移動需要が豊洲駅から東京メトロ有楽町線に分散されるため、臨海地下鉄を建設する意義が薄れかねない。そんなこんなで中央区は、この頃から関係者による「ゆりかもめ批判」に傾くようになる。

 特に、吉田不曇・中央区副区長は「(ゆりかもめの勝どき駅延伸は)ばかげている、絶対につくらせない」「ゆりかもめは遊覧的な交通手段(定員が少ないから)で、人口が多い地域や東京駅につなぐのは危険」「高架が街を分断する」といった発言を繰り返し、14年2月には区議会で「(延伸の可能性は)基本的にゼロ」「永遠に豊洲で止まっていただきたい」とまで言い切ってしまった。タワマン誘致など中央区の都市開発の立役者であり、現在も副区長として5期目の実力者の意見を、他の関係者が覆すことは難しかったようだ。

 実際、ゆりかもめ延伸計画は、1.5km程度の距離を倍以上に迂回(うかい)するなど、難があったのも確かだ。今や立派なタワマン街となった中央区にとって、車両が小さく低速、ルートも遠回りなゆりかもめではなく、一直線に都心を結ぶ地下鉄の方が必要だと判断したのだろう。現在では、国の運輸政策審議会答申からも、豊洲駅~勝どき駅間の計画は削除されている。