「働き方改革」やコロナ禍によるリモートワーク推進を経て、日本の職場も少しずつ変化を遂げている。しかし、海外のような長期休暇を日本で取得するのはまだまだ難しいのが現状だ。皆が長い休暇を取りにくいのはなぜなのか。行政、仕組み、職場の環境、それとも人々の意識……?『休暇のマネジメント』を上梓した在仏20年以上の文筆家・高崎順子氏とジャーナリストで働き方改革実現会議の委員を務めた相模女子大学大学院特任教授・白河桃子氏の対談を通じて、「日本流バカンス」に必要なものを考察する。(相模女子大学大学院特任教授 白河桃子、文筆家 高崎順子、執筆/佐野倫子、構成/宝金奏恵)
休暇は給与と同様に、働く人の権利
「長期休暇を上手に活用している国のお手本」を探すとき、フランスはその筆頭に挙がる国だろう。労働法で年間最短5週間の有給休暇が決められており、大半の人が7~8月に順番で取得する。
それでいてフランスはG7(主要7カ国)の経済大国。法で定めた長期の休みを、ほぼ全ての人が消化するというから驚きだ。果たしてそのために国や企業、個人はどのような取り組みをしているのだろうか? 在仏20年以上の高崎順子氏と、日本における「働き方改革」を提唱する相模女子大学大学院特任教授・白河桃子氏に、その手法を聞いた。
白河桃子氏(以下、白河) 高崎さんが執筆された『休暇のマネジメント』(KADOKAWA)をうなずきながら拝読しました。意外だったのは、高崎さんご自身もフランスに住みながらも最近まで「休みベタ」だったということ。
高崎順子氏(以下、高崎。高の文字は正式にはしごだか) そうなんです。この本を執筆しながら、そのことに気がつきました(笑)。だから休めない方の気持ちも、システムもよく分かります。フランスではご存じの通り、長期休暇、いわゆるバカンスが社会の仕組みとして根付いています。バカンス中と知らずに取引先に「あの仕事どうなっています?」って尋ねても、オフィスにいるスタッフは決して休暇中の同僚に連絡しようとしない。休む権利を守るという意識が徹底しています。
白河 そう、休暇というのは給与と同様に働く人の権利であり、雇用主は必ず与えなくてはならないものという仕組みに驚きました。その感覚が労使ともに徹底していますよね。高崎さんの著書にあった「余暇とは自分の好きに使える時間のこと。そして人間として生きる喜びと、人としての尊厳を知る時間であると、フランス政府は法を整備するときに打ち出した」という部分、もう本当にその通り!と思いました。
高崎 人としての尊厳を守るために休む。そう考えると、用事をこなすための細切れの休みは、厳密には休暇とは違いますね。
白河 難しいのは、長期休暇の制度を作っても、それだけでは浸透しないという現実です。運用が重要なんですね。日本で休暇について法律が議論されたのは、私も参画した2017年の「働き方改革実現会議」でした。これはなかなか難航しました。「有給休暇を年5日間取らせましょう」と決まっても、雇用側は「それじゃ現場は回らないから、正月三が日に2日くっつけよう」とか、そういう裏道を探す展開になってしまうんです。特に人員に余裕がない中小企業はどうするんだという声は根強かったですね。
高崎 日本は、人としての尊厳を持って働ける、すなわちゆとりのあるタイムスケジュールで動くことにまだ強い抵抗がありますね。よく「生産性が下がるから無理」と抵抗する声もありますが、長年フランスでの先例を見てきたので、「それは思い込みではないですか?」と問いたいです。バカンスを取ると、皆さんリフレッシュして仕事に対してのモチベーションもすごく上がるんです。休みベタを自認していた私でさえそうでした。去年、この本を書きながら一念発起して、初めて2週間まったくPCを触らなかったんです。完全なお休み。そして休暇後、キーボードを触ったときのやる気とうれしさと言ったら……!これこそがバカンスの効用なんだと実感しました。