自分は無力だ、権力にふさわしくないと
考えてしまう「インポスター症候群」
米スタンフォード大学ビジネススクール教授。「世界で最も偉大な経営思想家」(「The Thinkers50」)に選ばれたこともある。組織行動学が専門。スタンフォード大学で博士号を取得。イリノイ大学ビジネススクールなどを経て、1979年からスタンフォード大学で教える。新刊『出世 7つの法則』(日本経済新聞出版、櫻井祐子訳)をはじめ、『悪いヤツほど出世する』『「権力」を握る人の法則』(共に日本経済新聞出版、村井章子訳)など著者多数。ハーバード・ビジネススクールなどの客員教授でもある。権力や出世に関するポッドキャスト「Pfeffer on Power」のホストも務める。 Photo courtesy of Jeffrey Pfeffer
フェファー 権力を手に入れるに当たって、最大の障害は「自分自身」だ。周りから好かれたいと思うあまり、人の目を気にしすぎたり、「インポスター(詐欺師)症候群」に陥って悩んだりする。
インポスター症候群とは、自分を無力だと感じ、(能力があるふりをして人をだましているような気持ちになり)自分には権力などふさわしくないと考えてしまうことだ。
権力を手にするには、まず、「自分は権力を得るにふさわしい人間だ」と信じる必要がある。そして、権力を求めて進んで行動することが重要だ。
また、私たちはルールを守るよう言われて育つものだが、成功する企業や個人は、大抵の場合、他社や人と違うことをやっている。
トランプ氏は、従来の大統領選とは一線を画した選挙戦を行い、マスク氏も型破りのリーダーだ。アマゾンも、他の企業とは違う道を歩んできた。
これが、成功をめぐる真実なのだ。人と同じことをやっていたら、人と同じ結果しか残せない。「並外れた存在」になりたいのなら、「並外れたこと」をするしかない。
――人は、ルールを破ることでのけ者にされたくないと思う半面、周りに差をつけたいという「ジレンマ」を抱えていると書いていますね。日本企業では同調圧力が強く、ルール破りや、職場の飲み会に出ないといった、個人主義的な行動を取った場合、出世に響きかねません。
フェファー 出世する唯一の道は、ライバルに差をつけ、抜きんでた存在になることだ。
飲み会に関して言えば、アルコールは人々の健康に多くの悪影響を及ぼす。アルコールには鎮静作用があり、(脳の働きが低下し、酩酊するなど)身体と行動の両面でマイナスの効果をもたらす。こうした体を壊すようなことをするのではなく、健康を保てる形で、出世のための交流を心がけるべきだ。
――法則5「ネットワークをつくれ」では、上司や同僚など、「仕事に役立つ人」との交流が推奨されています。米国は個人主義であるせいか、家族や友人と過ごす時間が長く、仕事以外で同僚と過ごす時間が短すぎるそうですね。一方、日本企業では、職場の付き合いが重視されます。日本文化のこうした点は評価できるのでしょうか。
フェファー そう思う。とはいえ、職場の人々との交流にアルコールは要らない。職場の人々と社外でも付き合い、社会的関係を築くことは重要だが、飲み会でなくてもいい。正体がなくなるまでお酒を飲む必要はない。
また、男性同士の飲み会は、女性が権力の基盤を築く道を閉ざしてしまう。出世のための交流から女性を排除することは良くない。社会の半分に背を向けることになるからだ。
――書籍では、トランプ前大統領や故・スティーブ・ジョブズ氏、米アマゾンのジェフ・ベゾス前CEO・会長、米テスラのイーロン・マスクCEO、米ヒューレット・パッカード(HP)のカーリー・フィオリーナ元CEOなどを挙げ、彼らは「権力の法則のお手本」であり、リーダーの行動に関する「重要な教訓」を教えてくれると書いていますね。
フェファー トランプ氏もマスク氏もビル・ゲイツ氏も、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の故・ジャック・ウェルチ元会長・CEOも同じ教訓を教えてくれる。
失敗した場合に備え、あらかじめ言い訳を考えて不利な状況に身を置き、自分にハンディキャップを課し、「◯◯のせいで失敗した」と体裁を繕い、プライドを保つようなこともない。もちろん、「自分は権力にふさわしくない」などとも考えない。
周囲からの要望や期待に従わないことで、権力の座に上り詰めたのだ。そして、とりわけ、謙虚で控えめでもない。彼らは一人残らず、権力者としての振る舞いや話術を自ら学んだのだ。彼らのほとんどが、「権力の法則のお手本」である。