1万件を超える「幼児から高校生までの保護者の悩み相談」を受け、4000人以上の小中高校生に勉強を教えてきた教育者・石田勝紀が、子どもを勉強嫌いにしないための『勉強しない子に勉強しなさいと言っても、ぜんぜん勉強しないんですけどの処方箋』を刊行。子どもに失敗してほしくない、教育熱心な人ほど苦悩を抱える大問題への意外な解決法を、子育てを「動物園型」「牧場型」「サバンナ型」にたとえて解説します。

子どもが勝手に育つ?「サバンナ型子育て」のメリットと注意点Photo: Adobe Stock

サバンナ型子育てって?
親離れして自立して生きていく社会人以降

 サバンナにはいろんな種類の動物たちがいて生存競争をしながら生きています。
 群れをつくって集団で生きる草食動物もいれば、家族単位で生きる肉食動物もいます。単独で生きる動物もいますし、水やエサのある安全な場所を探しながら移動する動物もいます。
 弱い生き物が強い生き物に食べられる世界ですから、敵からいつ襲われるかわからない危険と隣り合わせで、毎日がサバイバルです。その代わりどこにでも好きな場所へ行くことができます。
 管理されない自由があるので、野生の本能を存分に発揮できる環境とも言えます。

完全に親離れ子離れする

 人間社会もサバンナと同じです。子どもが社会人になったら、完全に親離れ子離れするときです。
 自分で働いて収入を得て、住む家も食べ物も自分でなんとかしてもらいます。
 親はもう世話をしませんから、好きなように生きていける代わりに、自分で生計を立てて危険も回避しなければなりません。
 仮に実家に住み続けたとしても、食費や生活費は入れさせて自立をうながします。
 高校や大学に進学しないで10代のうちから社会に出て働きはじめた場合も、サバンナ型に当てはまります。

サバンナ型子育てのメリット
何かあったらいつでも戻れる居場所を用意してサポートしよう

①自由度が一気に高まる
②情報収集力や思考力が高まる
③経験を積めば積むほどサバイバル能力が鍛えられる

 サバンナに出ると親の管理下ではなくなるので、自由度が一気に高まります。
 住む場所も食べる物も好きに選べますが、生活資金が必要なので、自分で働いてお金を稼がなければいけません。
 仕事のことはもちろん、健康、人間関係、自分の将来のことまで真剣に考えるようになるので、情報収集力や思考力が高まります。
 それまで親に頼っていたことを、すべて自分でやるのはまさにサバイバルですが、そのぶんたくましく成長していきます。もちろん親が「勉強しなさい」などと言わなくても、自ら必要な勉強をします。
 クリエイター、芸術家、経営者、スポーツ選手ほか、さまざまな世界で活躍する人は、早い段階で自分からサバンナに飛び出していくケースも少なくありません。
 そんな場合でも、未成年のうちは親の経済的援助が必要なこともあります。家を借りるときなど、さまざまな契約も親が保証人になります。
 しかし、それ以外のことを自分でマネージメントできる場合は、子育てのゴールである自立がもっとも早く進みます。
 もちろん、最初は失敗もするでしょうが、それも学習となり、経験を積めば積むほどサバイバル能力が鍛えられます。
 子どもが自分の人生を自分の足で歩きはじめたら、親は口出し無用、関わる必要もありません。ただ、何かあったらいつでも戻ってこられる居場所を用意して、困ったときにサポートしてあげればいいのです。

サバンナ型子育ての注意点
生活能力がないうちからの無謀なチャレンジは考えもの

①子どもを狙った悪い人たちが近づいてくる可能性がある
②詐欺や詐取の被害に遭う可能性もある
③命が脅かされることもある

 子どもがまだ自分で生きていけるほど秀でた才能も見つかっておらず、生活能力も育たないうちに、1人でサバンナに放つことはリスクしかありません。
 特に未成年のうちに目的もなく親元を離れると、子どもを狙った悪い人たちが近づいてくる可能性があるため、危険度が一気に増します。
 詐欺や詐取の被害に遭う可能性もありますし、最悪、命が脅かされることもあるかもしれません。
 動物にたとえれば、エサの見つけ方も逃げ方もよく知らないシマウマが、肉食動物がいる草原で迷子になっているようなものです。
「かわいい子には旅をさせよ」という言葉がありますが、それは「お金、健康、人間関係、キャリア(将来設計)」の4つを自分でマネージメントできるようになってからの話です。
 自分のことも自分でできないうちに、1人で旅をさせることは、イチかバチかの危険な賭けでしかありません。
 中には、高校時代に自転車や電車で日本一周したり、大学時代に海外を放浪したりする子どももいます。その経験によってサバイバル精神が鍛えられた場合は、それからもたくましく生きていくでしょう。でもこれは、小さい頃から自分のことは自分でするように育った子どものレアケースです。
 生活能力、自己管理能力がないうちに無謀なチャレンジを許すことは、慎重に考える必要があります。

*本記事は『勉強しない子に勉強しなさいと言っても、ぜんぜん勉強しないんですけどの処方箋』から、抜粋・構成したものです(次回へ続く)。