新日本酒紀行「百磐」専務杜氏の佐藤竜矢さん Photo by Yohko Yamamoto

家業ではなく町の企業の酒蔵!地元の米と酵母で次世代を目指す

 株主は地域住民という全国でも珍しい酒蔵が、岩手県一関市の磐乃井酒造だ。花泉地方七ヶ村(当時)で、1917年に株式会社として発足。町の小さな酒蔵だが、今年5月に開催された全国新酒鑑評会で金賞を受賞、難関の市販酒鑑評会「SAKE COMPETITION」の2部門でW入賞し、一躍注目される。杜氏の佐藤竜矢さんは、日本大学を卒業後、都内で映像会社の営業職に就くが、2012年に生まれ故郷へUターン。蔵の社員募集を見て営業で入社。酒を売る中、商品知識のなさを痛感し、酒造りを手伝うと面白さに魅了され、17年に杜氏になる。

 古い蔵で、麹室は断熱材が抜けて室温が上がらず、壁に板を張り増してしのぎ、岩手県工業技術センターの指導を仰いで、麹造りに衣装ケースを用いて衛生的に仕上げるなど、お金をかけずに工夫を重ねた。品評会用の大吟醸は、兵庫県産山田錦で醸造アルコール添加をしていたが、竜矢さんは岩手県の酒米と酵母、純米で勝負。米は5kgずつ、水温5℃で手洗いした。