「失敗のフォーム」を覚えて失敗を回避する

 いずれも、どこの会社で聞いたのかわからなくなるくらいの「本業の汚染あるある」で、せっかく現場でイノベーションの芽が見えていても、社内のしがらみのためにその芽が育たないことが往々(おうおう)にしてあるのだ。

 だから私は、企業から新規事業の相談をいただいたときには、まず最初、案件の詳細を聞く前に、「何をやっても、どうせうまくいきませんよ」と、とんでもなく失礼なことをわざと意地悪く言ったりして、本業の汚染を回避する施策の必要性を訴えている。とにかく、会社は本業を最適化するためにすべてが設計されているため、新規事業にそのルールを押し付けてしまうと、どんな新規事業の種を蒔(ま)こうが、本業の汚染で全部枯れてしまう。

 たとえるならば、本業はその企業が創業来、この道何十年とやってきている熟練の事業構造、組織体制で、すべてが「大人」。一方、新規事業は生まれたばかり、もしくは生まれる前の「赤ん坊」で、未成熟で不確実性の塊のようなものである。赤ん坊にいきなり大人のルールを押し付けてもそれは土台ムリな話で、新規事業という赤ん坊がスクスク育つためには、本業の汚染に遭わないよう環境を整える必要があるのだ。

 そして、企業が新規事業を生めないもうひとつの理由としては、ゼロからイチを生み出す「基本の型」が身についていないことである。前述のとおり、私はミスミの創業者・田口弘さんのもとで20年にわたり新規事業だけをやり続けてきたが、勝ち筋に至らず失敗した事業の数々を分析してみると、そこには必ずいくつかの共通要素があり、その要素を回避して失敗を防ぐことで、成功確率は上がるのだ。残念ながら、破壊的イノベーションを伴なう新規事業には、「こうすれば必ず成功する」という百発百中の必勝法はない。

 ラクスルのような時価総額1千億円超のユニコーンを生み出すような大成功は、創業者の能力やアイデアの魅力だけでなく、追い風となる運も必要であり、そこに再現性を求めることは難しい。

 ただし一方で、失敗を回避することは再現可能だ。新規事業の型というのは、「こうすれば必ず失敗する」という要素を回避するための正しいフォームのようなもので、このフォームに則(のっと)ることで新規事業成功の再現性は格段に上がるというのが、私の結論のひとつである。