新規事業は失敗が当たり前

 ただ、実際には途中で資金が底をついたり、人材を集められなかったり、そもそも起業家自身の心が折れたりと、さまざまな理由でほとんどが死に絶えていくのである。

 私の経験からいえば、最初に事業プランを100件立てても、最終的に勝ち筋に至るのはわずかに1つか2つしかない。世の中には「千三(せんみ)つ」という言葉もあるくらいだから、もっと確率が低くてもおかしくないのかもしれない。

 つまり新規事業は失敗が当たり前で、1つの事業を生み出すためには数を試すのが重要だという点で、フルタイムで働く優秀な人材がいて、数十年にわたり商いをしてきた信用とネットワークがあって、本業からキャッシュフローが生まれているのだから、企業はゼロからすべてを始める独立起業に比べて、新規事業を生み出せる確率が高い。

 ちなみに、前回のラクスルの創業当時の資本金はわずか200万円だ。創業したばかりだから、当然、営業キャッシュフローはマイナス。その状態の中で、どれほどのトライ&エラーが許されるかを考えてみれば、社内起業がいかに有利かということがおわかりになると思う。

 しかし企業は、この有利な条件をもってしても、なかなか新規事業を生み出すことができない。理由は2つある。ひとつは、いま確実に利益を稼いでいる自社の本業が最優先される、いわば「本業の汚染」があるからだ。本業の汚染というのは、本業の常識や都合によって新規事業を生み出すのを妨(さまた)げるものであり、それが社内起業の失敗の99%を占めているといっても過言ではない。

 たとえば、つい先日も出版社でネット媒体の立ち上げにアサイン(任命)された担当者から、こんなボヤキとも相談ともつかぬことを聞いた。

「紙の雑誌の市場規模が年々右肩下がりの中、ウチでも紙の媒体に代わる、次の収益源としてのネット媒体をつくれと言われたのですが、まだ売上利益の小さい新規事業に人員を増やすわけにはいかないから、専任ではなく兼務でやれと言われました。すると、1人当たりの業務負荷が増え、新規事業が中途半端になるばかりか本業の質も下がってしまう」
「初期の段階で、3年後の売上利益とその明確な根拠を求められ、それがなければ投資できないと言われます」
「成功よりも失敗の確率が圧倒的に高いから、新規事業の担当になったら人事評価が下がります。チャレンジするほうが損をするなら、誰も新規事業なんかやりたがらないですよね」