炎上している主要因
本人が思うより「山下達郎の音楽は偉大」だった

 山下氏は何を「失言」したのか。

 まず、ジャニーズ性加害を「知らなかった」発言(※正確には「性加害の事実について私が知るすべはまったくありません」など)についてである。

 一般人よりはジャニーズと近しいところにいた山下氏の口から「知らなかった」と聞いて、今すんなり納得できる人は少ないだろう。「ジャニーズには触れられない」というメディアの不自然なスルーもあったため、世論はこの件に緊張しつつ接しているのだ。「既得権益を守ろうとしている」、「『知らない』という形でジャニーズ性加害を容認する人がいたから、性加害問題が生まれてしまってきたのだ」という批判が相次いだ。

 山下氏は、「アイドルたちの芸事に対するひたむきな努力を間近で見てきたものとして、彼らに敬意をもって接したいというだけなのです」とくだんのラジオで語っている。アイドルたちの近くにいた山下氏だからこそ、性加害問題への関与の深さによっては、自身の振る舞いが被害者へのセカンドレイプになり得るおそれがあるとして、あえてタッチしないスタンスを取ったのかとも思われた。しかし、仮にもしそうだとしても、ラジオの説明を聞いた限りでは伝わりにくく、「知るすべはない」という言葉は、ともすれば無責任にも見えうる。これがまずひとつの炎上ポイントとなった。

 もうひとつの炎上ポイントは、自身の主張を受け入れられない人に「自分の音楽は不要」と言ってしまった点である。

 山下氏は決意の固さを表明するためにそう言っただけかもしれないが、山下氏の音楽は邦楽を聞く人たち、つまり多くの邦楽を聞く人にとって血の一部と言っていいくらい深く浸透した、公共の財産とも呼べるべきものであった。山下氏の楽曲は著作権などの観点から見れば山下氏の所有物であろうが、音楽を愛する心を持つ人々にとっては共通財産だったのである。

 ここを山下氏は見誤った。本人が考えているより、山下氏の作った音楽は偉大だったのである。

 思想と自分の音楽を結びつけて、ラーメン店の頑固おやじのようなやり方で自分の音楽を「あなたには必要ないかも」などと言ってしまったから、多くの人からブーイングを受けることになった。また、ラジオで語った「いちミュージシャンとしてのあり方」も、締めくくりに語られた「私の音楽は不要」発言と矛盾するものであった。

 筆者は、とにかくここの失点が大きかったと見ている。ここで心証を一気に悪くし、「この件は万事山下達郎が悪い」という世論が醸成されていったように思える。