印象に残ったのは
新幹線清掃会社の事例

 医師兼起業家を目指す私に、日本企業の教材はたくさんの学びを与えてくれました。最も記憶に残っているのは、必修授業で学んだ新幹線の清掃会社、JR東日本テクノハートTESSEI(テッセイ)の事例です。これは私だけではなく、ハーバードビジネススクールのすべての学生にとって忘れられない事例になっていると思います。

 テッセイの事例で特に感銘を受けたのは、一人のリーダーの存在によって、清掃スタッフだけではなく、周りの人々も変わっていったこと。つまりプロフェッショナルとして仕事をする清掃スタッフを見て、同じ会社の人たちも、乗客も、そして、世の中の人たちも、清掃という仕事をする人たちに対して敬意を示すようになっていったことです。

ハーバードの学生が「スシロー、セブン」に感動した訳、深夜のラーメン店で日本の課題も発見?東京スカイツリーにて=2023年5月20日、東京都墨田区 写真提供:ケイレブ・ウォーレン

 すべての仕事には意味があり、すべての従業員はその仕事を全うするプロフェッショナルであること、そして、リーダーはすべての従業員に敬意を払わなくてはならないことをこの事例から学びました。これは、卒業後、医師になっても、起業家になっても、役立つ教訓だと思います。

 テッセイの事例に象徴されるように、日本から学ぶべきことが多くあると感じています。

 ハーバードの授業では、トヨタ生産方式が医療の現場にも役立てられていると習いましたから、もしかしたら、日本の医療システムは、交通システムや自動車工場と同じように、とてつもなく革新的なのではないかと想像しています。

 次回、日本を訪問する際には、病院なども視察してみたいし、医療従事者とも意見交換してみたい。いずれにせよ、できるだけ早く、再訪したいと思っています。

*本記事に登場する学生・卒業生のインタビューは、個人の意見を反映したものであり、ハーバード大学およびハーバード大学経営大学院の見解を示すものではありません。
佐藤智恵(さとう・ちえ)
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。講演依頼等お問い合わせはhttps://www.satochie.com/