エッセンシャル思考は人的資本の一極集中
エッセンシャルとは、「もっとも大事なこと」「必要不可欠なこと」だ。
「どれも大事だ」「なにもかもやらなくては」というプレッシャーにさらされ、無理な仕事を引き受けるタイプは、期限が迫るとグリット(やり抜くちから)に頼ろうとし、その結果なにもかも中途半端で疲れ切り、無力感に打ちのめされてしまう。これが「非エッセンシャル思考」だ。
それに対して「エッセンシャル思考」は、自分や家族にとってなにがほんとうに大切(エッセンシャル)かを決め、優先順位の低いものを切り捨てて、やることを計画的に減らす。その結果、仕事や勉強の質が上がり、「ものごとをコントロールしている」「正しいことをしている」と思えるようになり、充実感をもって毎日を過ごせるようになる。
このシンプルな考え方が広く受け入れられたのは、ますます複雑化する現代社会において、「大事で重要なこと(エッセンシャル)に集中する」以外の対処法がないことを、誰もが(なんとなく)気づいているからだろう。
ここではそれに、能力のちがいを加えてみよう。
学校でも会社でも、つねに自分よりも高い能力をもったライバルがいる。グローバル化が進むと、組織だけでなく国境を超えた競争にさらされることになる。いまやライバルは世界中にいるのだ。
だがこのライバルたちが非エッセンシャル思考なら、せっかくの大きな能力(エネルギー)も複数に分散してしまうので、いろいろなことをそつなくこなすかもしれないが、大きな成功を手にすることはできない。
それに対してあなたがエッセンシャル思考なら、たとえ能力が劣っていても、エネルギーをひとつのことに集中してはるかに大きな成果をあげることができる。
多くのことをいちどにやろうとすると、そのたびに選択が増えていく。非エッセンシャル思考は、選択のコストに押しつぶされてしまうのだ。
それに対してエッセンシャル思考では、いったん人生の優先順位を決めたら、さして重要でない選択は放棄するか、自動化してしまう。たったこれだけで、ささいな能力のちがいは関係なくなり、ライバルに大きな差をつけることができるだろう。
私は同じことを、「人的資本は一極集中する」と述べてきた。人的資本について理解しておくべきもっとも大切なことは、これだけだ。
※この記事は、書籍『シンプルで合理的な人生設計』の一部を抜粋・編集して公開しています。
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。