前述の通り、ビッグモーターは未公開会社です。しかし、2015年に中古車売買を行っていた公開会社のハナテンを買収した際に、株主構成が公開されています。その時点では、損保ジャパンが持ち株比率6.88%で兼重前社長に次ぐ第2位の株主になっていることが判明しています。

 他の保険会社2社の出向者がそれぞれ3名のレベルであるのとは違い、損保ジャパンが37人という突出した出向者を出していることはこの資本関係から説明がつきます。

 2021年秋に内部告発で水増し請求が表面化して、翌2月には損保3社がサンプル調査を行い多数の工場で水増し請求が起きていたことが発覚しました。結果を受けて3社ともビッグモーターとの取引を停止したのですが、損保ジャパンだけは22年7月に「組織的な不正の指示がなかったことを確認できたため」という理由で、受け入れを一時再開します。

 一方で、損保ジャパンの白川社長によれば、同社の経営陣が今回の不正の内部告発の情報を知ったのは2022年の夏だといいます。損保ジャパンが弁護士を含めた調査委員会を立ち上げることを表明するのはそのずっと後の2023年7月、つまり事件が完全に表面化するまでの10カ月以上なぜか調査を始めていないのです。

 ビッグモーターの記者会見で現場のことは知らないとしていた兼重前社長が、損保ジャパンの出向社員は関与していないことだけは知っていると強調していたのも印象的でした。

 実は損保ジャパンは2019年に、ビッグモーターに関して「完全査定レス」の仕組みを導入しています。それまではビッグモーターが修理の見積もりを作成したら、損保ジャパンの損害査定人(アジャスター)がその見積もりをチェックしてから修理に着手していました。これは保険の一般的なワークフローです。

 しかし、ビッグモーターではそのチェック工程を完全に省略して保険金を支払う形に変えたのです。

 損保ジャパンの出向者は不正の現場に立ち会っていないということですが、工場長会議には出ていたという報道がありますし、ビッグモーターが修理1件当たりの工賃にノルマを設定していたことも知っていたという報道もあります。

 そもそも、修理1件当たりの工賃にノルマがあるということ自体がいろいろと不可解です。工賃は一定ではなく車の状態によって変動するため、修理の程度が軽微であれば、ノルマを達成できないことだってあるはずです。

 そしてよく考えてみると、損保ジャパンはそれほど大きな被害は受けていないかもしれません。

 ビッグモーターは損保ジャパンにとって、年間100億円台の保険料収入をもたらしてくれる大手保険代理店です。被害額が水増しされた車の保険契約者は翌年からの保険料が上がりますから、後々元がとれます。

 そしてビッグモーターについてはアジャスターレスだったので、損保ジャパンのアジャスターは他の事故に専念できます。実は業界では損保ジャパンのアジャスターはすご腕だと評判で、事故の相手が損保ジャパンに入っていると厳しい金額の賠償金しか受け取れないと嘆く人も多くいます。

 邪推すれば、全体での収支は維持できている可能性があるのです。

 いずれにしてもこれから起きることとしては、損保ジャパンがこれらの事柄について、対外的に厳しく説明責任を求められるようになるということだけは間違いないでしょう。