定年退職の時期を遅らせると健康に悪い!?京都大学の研究からPhoto:PIXTA

 少子高齢化で退職年齢と年金受給開始年齢が先延ばしされる昨今。ところが、退職時期を無理に引き延ばすと心臓に悪いらしい。

 京都大学の研究グループは、日本の「くらしと健康の調査(JSTAR)」のほか、中国、韓国、米国など35カ国で行われた同様の調査研究から、50~70歳の男女およそ10万人を平均6.7年間追跡。退職というライフイベントと心疾患リスクとの関連を調べている。退職後も嘱託などで部分的に働いている人は、解析対象から除外された。

 解析の結果、退職によって心疾患のリスクが2.2%低下することが示された。

 また退職による健康効果として、運動不足(週に1回未満の中~高強度の運動のみ)の解消、体重の低下、女性に限れば喫煙者の減少も認められている。

 ただ、就業内容を「肉体労働」「非肉体労働」で比較すると、心疾患のリスク低下や運動不足の解消といったプラスの効果は「非肉体労働者」のみで、肉体労働者はむしろ、身体を動かす機会が減り、退職後は体格指数30以上の「肥満」に陥るリスクが示された。

 教育期間を「初等教育(義務教育)」「中等教育(高卒/専門学校卒)」「高等教育(大卒以上)」に分け、比較してみると、心臓病のリスクは3カテゴリー全てで低下。「高等教育」以上では、心疾患のほか、脳卒中リスクも低下した。

 研究者は「引退の遅れは必ずしも健康に良いとはいえない」とし、「退職年齢や年金受給開始年齢の引き上げは、高額な医療費がかかる『心疾患』を増やす可能性を考慮すべき」と提言している。

 今回の調査のキーは、退職後に「運動不足」が解消され、心疾患リスクの抑制につながったとみられる点だ。事務職なら「座りっぱなし」の健康リスクも解消されたことだろう。逆にいえば「働き続けたければ、現役時代から運動しよう」というわけ。

 引退する、しないにかかわらず、まずは軽く息が弾む程度の有酸素運動を1回30分以上、週3~4回続けてみること。慣れてきたら運動強度を上げていこう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)