彼女たちに「まだパソコンは普及してないけど、今後はぜったいに必要になるから習ったほうがいいよ」「僕たちがパソコンスクールを紹介するね」「授業料、安くするし、そのあと割のいいバイトも紹介するから元はすぐに取れるよ」と口説いて、習ってもらうのだ。
そうして彼女たちにパソコンの技術を身につけてもらった後、イベントコンパニオンとしてパソコンのショーに送り込み、パソコン会社からキックバックをもらう。
彼女たちにとっては良い実入りになるし、我々としても元手のかからないオイシイ仕事なのだが、唯一の難点は企業側の支払いサイトがすごく長いことだった。
しかし、私たちはパーティーの売上により、十分な支払い余力があったため、企業側の支払いサイトを呑み込めたうえに、キックバックが入ってくる前に即金でイベントコンパニオンたちにアルバイト代を支払うことさえもできた。支払い条件が良いから、どんどん学生が集まってきて、キックバック収入も増えていった。
こうして、支払いサイトの違うビジネスを複数回すことで、会社全体のキャッシュの巡りを維持していた、というわけだ。
とはいえ、それらを過度なリスク思考で熟慮に熟慮を重ねたわけではなく、「まぁ、どうにかなるだろう」という、若干過度なポジティブ思考で片っ端から手を付けていった、という感じであった。先輩たちが先鞭(せんべん)をつけていて、「お前たちもやれ」「はい、やります」、そういう世界だったのだ。
一方、いまのようにインターネットの発達で情報が飛び交い、リスクも想像がつくようなアタマのいい若者だったら、やる前に躊躇(ちゅうちょ)するのではないかと思う。しかし当時の私たちは、「べつに失敗しても、そのあとに成功すればいいじゃん」と考えていた。
だから、軽やかに一歩を踏み出すことをためらわなかった。そして、何度もこれを繰り返すうちに、それが当たり前となっていったのである。
「人は考えたようにはならなくて、おこなったようになる」。これは30年の新規事業経験からつかんだ私のひとつの持論であるが、事業をおこなう上で重要なのは「はじめの一歩を踏み出す」ことだ。
実際に動き出してみると、思いのほか簡単かもしれない。逆に思ったより難しくて歯が立たないかもしれない。でも、いずれにしても実態を肌感覚で理解することができる、ということだ。自転車の乗り方は、妄想するより乗ってみればわかる、そんな感じだ。