中谷さんが、「このコンテストは、応募は1人1通までなんてどこにも書いていないのに、1人を除いて全員1個しか応募していない。新規事業は多産多死なんだ。1分の1では成功しないのに、なんで全員1個なんだ? 一方、1人だけ複数応募して、その人が全体の1割を超えていた。こういう人がイノベーターなんだ」と、要するに事業アイデアの前に「起業家としての姿勢」を評価してくれたのだ。

 本当は、応募総数を増やそうとたくさん応募したわけだから、それをイノベーターと言われるとちょっと気恥ずかしいものがあったが、それでも優勝できたことは嬉しかったし、なにより、ミスミ創業者の田口さんから「うちで働かないか」と声を掛けられたことが大きかった。このイベントがキッカケで、ミスミに入社するという運びになったからである。

 かくして、ミスミに入社した私に田口さんは、「君は新規事業だけをやるんだ」と言った。

 前回で記した「わが国には、経理のプロや法務のプロはいる。弁護士が弁護がうまいのは、弁護ばかりやっているからだ。ひるがえって、わが国の新規事業をみると…」という、あのくだりである。

書影『新規事業を必ず生み出す経営』『新規事業を必ず生み出す経営』(日本経営合理化協会出版局)
守屋 実 著

 田口さんの言葉には不思議な説得力と情熱があった。その情熱にすっかりあてられた私は、「なるほど、たしかにそうだ」と、ミスミで新規事業に邁進(まいしん)することとなる。

 しかし、ことはそう単純には進まなかった。ミスミでの私の新規事業人生は、大失敗からスタートすることとなったからだ。

【私が得た教訓】

・人は考えたようにはならない、おこなったようになる
 新規事業は多産多死で不確実性の塊。
 だから躊躇せず、今すぐ一歩目を踏み出そう。

・予習(シミュレーション)のしすぎに意味はない
 机上でいくらシミュレーションしても、“わからないお化け”が出没するだけ。

・「やり方」の前に「あり方」
 新規事業はテクニックの前に「起業家としての姿勢」が一番重要。